次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
だが、ディルはずっと取り合ってくれないのだ。
「お前の乳母も言ってたじゃないか。実力を示せって。そのとおりだよ」
「うーん、でも……」
「それに、俺は別に国民から愛される王じゃなくてもいいし」
「えぇ?ダメよ、そんなの」
ディルはプリシラの反論を無視し、力強く肩を抱き寄せる。耳元に唇を近づけると、極上に甘い声でささやいた。
「ーーお前が愛してくれるなら、それだけでいい」
「な、なに言って」
プリシラの頬が一気に赤く染まる。頬だけでなく、体まで熱くなっているみたいだ。
「本心だよ。ずっと言いたくて、けど、言えなかったことだ。もう我慢しない。伝えたいことはすべて伝える」
プリシラは戸惑った。死んでもいいと思うほどに嬉しいけれど、恥ずかしさがそのうえをいく。ディルとこんなに甘い関係になれるなんて、想像もしていなかったのだから。
「えっと。でも、なにもこんなところで。ねぇ?」
なにがねぇ?なのか、自分でもよくわからなかった。頭が真っ白だ。才色兼備の公爵令嬢だったはずの自分はどこへ行ったのだろう。ディルの前では全然ダメだ。
「どんな場所でも、誰が聞いていても、俺は構わないよ。プリシラだけを愛してる。ずっとずっと欲しくて、やっと手に入れたんだ。一生、大切にする」
そう言ってディルは、本当に幸せそうに微笑んだ。
「そんな顔されたら、なにも言えないじゃない」
プリシラは真っ赤な顔でうつむいた。そして、小さな声でささやく。
「いまね、世界一幸せよ。怖いくらい」
ディルは優しくうなづくと、プリシラの額にキスを落とす。
「あぁ、そうだ。別の意味でも、もう我慢する気はないから。今夜からは毎晩、お前の部屋に帰る。覚悟しておけよ」
「えぇ!?」

事件の処理が終われば次は即位の準備と、ディルはずっと多忙だった。リノ離宮での一夜以来、プリシラは彼と夜を過ごしていなかった。
もちろん寂しくはあったが、どこかほっとしている部分もあった。

(だ、だって、お互いの気持ちを確かめ合ったわけだから……もうディルはソファでってわけには……)

華やかに、パレードの隊列は進んでいくが、プリシラはすっかり上の空だ。
(こんなんじゃ、王妃失格だわ)
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