次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「お前も運がなかったな。俺でなくフレッドの側近になれていれば、出世の芽もあっただろうに」
贔屓目なしにターナは優秀だ。家柄も悪くない。その能力が正当に評価されれば、将来的には宰相の地位につくことだって夢ではないはずだ。自分の側近などでくすぶっているのはもったいないと、ディルは常々思っていた。が、ターナは出世にはとんと興味がないらしい。
「私は日々をつつがなく過ごせればそれで。フレッド殿下の側近たちの足の引っ張り合いに巻き込まれるのはごめんです」
「お前なら、他人の足を引っ張らなくてもトップに立てるさ」
フレッドの側近たちが無能と言いたいわけではないが、ディルが見たところターナと肩を並べられる者などいやしない。
ディルはそれを正直に言っただけなのだが、ターナは驚いたように目を見張った。いや、非常にわかりづらいが‥‥照れているつもりなのだろうか。ターナは居心地悪そうにうつむいた。
「‥‥お褒めにあずかり光栄ですが、私は今の職務に満足していますから。私のためを思ってくださるのなら、もう少し女遊びを控えて、王子らしくしていてください」
「う〜ん」
ディルは苦笑する。ターナとの会話はいつだって、結局はここに終着してしまうのだ。彼はディルの乱れた生活態度がよほど気に食わないらしい。

(別に女が好きなわけでもないけどな‥‥)
王太子であるフレッドと違い、自分は暇を持て余す身分だ。他にすることもないから、寄ってくる女たちと遊ぶ。
呪われた王子であるディルの最良の使い道は他国へ婿に出すことだと誰もが思っているし、ディルもそれに異論はない。だから、恋人を作ろうとも思えなかった。
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