次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「急ぐ必要があるんだよ」
「どういうこと?」
「国王陛下の容態が思わしくないんだ。王宮医師が言うには、いつどうなるかわからないと‥‥。そんな状態で、王太子まで不在というわけにはいかない。国の根幹が揺らぎ、他国につけいる隙を与えてしまうからね」
陛下の容態については、かなり以前から厳しい状態だと言われ続けていた。もう、ここ数年はフレッドが国王代理としてその責務のほとんどを担っていたのだ。
その頼りになる息子が行方知れずになったことで、心も体も一気に弱ってしまったのかもしれない。
また、公爵ら宮廷の重鎮たちにとっても、政治・軍事の両面で実質トップに立っていたフレッドの不在は重くのしかかっているのだろう。
「でも‥‥」
「お前もわかるだろう。これは決定事項だ。陛下も承諾なさっている。それから‥‥」
公爵は少しためらうように言葉を止めた。
「なに?」
プリシラが問うと、覚悟を決めたようにきっぱりとした口調で言い放つ。
「ディル殿下の王太子就任の儀が終わり内政が落ち着き次第、お前はディル殿下と結婚することになる。そのつもりで準備をしておいてくれ」
なにを言われたのか、すぐには理解できなかった。だが次の瞬間、プリシラは頭にかっと血がのぼるのを自覚した。
「ディルと結婚⁉︎ いまさらなにを?振り回すのもいい加減にしてちょうだい」
思わずそう口に出してしまいそうになったが、必死にのみこんだ。
(わかってる、お父様が悪いわけじゃない。ロベルト公爵家として、娘を王妃にする必要があるだけだ。結婚相手がフレッドだろうがディルだろうが、そんなのは些細なことなのだ)
政略結婚の駒になるのは貴族の女に産まれた宿命。いや、贅沢な暮らしをさせてもらってきた代償として、プリシラが果たすべき義務なのだ。
(相手がディルだからって感情的になってしまってるのは私の問題だわ‥‥)
理性ではそう結論づけたが、やっぱり感情は追いつかない。
「ーーわかりました。でも、どうかフレッド殿下の捜索は続けて。お願い、お父様」
震える声でそれだけ言うのが精いっぱいだった。
「あぁ、もちろん。私たちだって、殿下の無事を祈ってるさ。それは変わらない」
公爵は娘を安心させるよう、力強くうなずいた。
「どういうこと?」
「国王陛下の容態が思わしくないんだ。王宮医師が言うには、いつどうなるかわからないと‥‥。そんな状態で、王太子まで不在というわけにはいかない。国の根幹が揺らぎ、他国につけいる隙を与えてしまうからね」
陛下の容態については、かなり以前から厳しい状態だと言われ続けていた。もう、ここ数年はフレッドが国王代理としてその責務のほとんどを担っていたのだ。
その頼りになる息子が行方知れずになったことで、心も体も一気に弱ってしまったのかもしれない。
また、公爵ら宮廷の重鎮たちにとっても、政治・軍事の両面で実質トップに立っていたフレッドの不在は重くのしかかっているのだろう。
「でも‥‥」
「お前もわかるだろう。これは決定事項だ。陛下も承諾なさっている。それから‥‥」
公爵は少しためらうように言葉を止めた。
「なに?」
プリシラが問うと、覚悟を決めたようにきっぱりとした口調で言い放つ。
「ディル殿下の王太子就任の儀が終わり内政が落ち着き次第、お前はディル殿下と結婚することになる。そのつもりで準備をしておいてくれ」
なにを言われたのか、すぐには理解できなかった。だが次の瞬間、プリシラは頭にかっと血がのぼるのを自覚した。
「ディルと結婚⁉︎ いまさらなにを?振り回すのもいい加減にしてちょうだい」
思わずそう口に出してしまいそうになったが、必死にのみこんだ。
(わかってる、お父様が悪いわけじゃない。ロベルト公爵家として、娘を王妃にする必要があるだけだ。結婚相手がフレッドだろうがディルだろうが、そんなのは些細なことなのだ)
政略結婚の駒になるのは貴族の女に産まれた宿命。いや、贅沢な暮らしをさせてもらってきた代償として、プリシラが果たすべき義務なのだ。
(相手がディルだからって感情的になってしまってるのは私の問題だわ‥‥)
理性ではそう結論づけたが、やっぱり感情は追いつかない。
「ーーわかりました。でも、どうかフレッド殿下の捜索は続けて。お願い、お父様」
震える声でそれだけ言うのが精いっぱいだった。
「あぁ、もちろん。私たちだって、殿下の無事を祈ってるさ。それは変わらない」
公爵は娘を安心させるよう、力強くうなずいた。