次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「それじゃあ、体に気をつけて。あ、勉強も怠るなよ。お前が次の王妃となることに変わりはないんだからな」
「はい。お父様もお体は大切になさって」
王宮の正門で、プリシラは公爵を見送った。門前には公爵を迎えに来た馬車が待ち構えていた。そこから出てきたのは、プリシラもよく知る男だった。
「これは、これは。プリシラお嬢様、ご無沙汰しております」
年は四十代半ば、青ざめたような白い肌に尖った鼻と薄い唇。いつもにこにこしているのに、目はちっとも笑っていない。まるで蛇のようだと、プリシラは彼を見るたびに思う。
「お久しぶりね、ナイード」
プリシラもにこやかな笑みを返したが、
それ以上は会話が続かない。
(偏見かもしれないけど、彼だけは苦手なのよね)
といっても、彼を嫌っているのはプリシラだけで、公爵は彼を重用していた。
元は家の雑務こなすために雇われたのだが、いまや公爵の一番の部下として、宮廷内にも顔を知られる存在になっていた。なんでも裕福な商家の出で、諸外国の情報に明るく、数か国語を流暢に操ることができるそうだ。
(そんなに優秀なのに、なぜ雑務係に……と思わなくもないけど。考えすぎかしら?)
「それでは、公爵。参りましょうか。プリシラお嬢様、どうぞお健やかに」
「えぇ、ありがとう」
ふたりの乗った馬車が見えなくなるまで見送ってから、プリシラはそっと踵をかえした。結婚相手が変更になるという異例の事態であっても、ミモザの宮から出ることは許してもらえないらしい。
「はい。お父様もお体は大切になさって」
王宮の正門で、プリシラは公爵を見送った。門前には公爵を迎えに来た馬車が待ち構えていた。そこから出てきたのは、プリシラもよく知る男だった。
「これは、これは。プリシラお嬢様、ご無沙汰しております」
年は四十代半ば、青ざめたような白い肌に尖った鼻と薄い唇。いつもにこにこしているのに、目はちっとも笑っていない。まるで蛇のようだと、プリシラは彼を見るたびに思う。
「お久しぶりね、ナイード」
プリシラもにこやかな笑みを返したが、
それ以上は会話が続かない。
(偏見かもしれないけど、彼だけは苦手なのよね)
といっても、彼を嫌っているのはプリシラだけで、公爵は彼を重用していた。
元は家の雑務こなすために雇われたのだが、いまや公爵の一番の部下として、宮廷内にも顔を知られる存在になっていた。なんでも裕福な商家の出で、諸外国の情報に明るく、数か国語を流暢に操ることができるそうだ。
(そんなに優秀なのに、なぜ雑務係に……と思わなくもないけど。考えすぎかしら?)
「それでは、公爵。参りましょうか。プリシラお嬢様、どうぞお健やかに」
「えぇ、ありがとう」
ふたりの乗った馬車が見えなくなるまで見送ってから、プリシラはそっと踵をかえした。結婚相手が変更になるという異例の事態であっても、ミモザの宮から出ることは許してもらえないらしい。