次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
翌日。フレッドに代わり、ディルが王太子となることが正式に発表された。フレッドの国民からの人気は絶大だったため、国中がお葬式のようなムードに包まれ、ディルの王太子就任を祝う声はひとつも聞こえてこなかった。

「これじゃ、ディル殿下が気の毒ですね」
今夜のディナーのためのドレスを一緒に選んでくれていたリズが小さくつぶやいた。
「そうね。でも、事情が事情だし‥‥ディルもわかってると思うわ」
たしかにディルは気の毒だが、これまで国民のために懸命に王太子としての責務を果たしてきたフレッドを、みなが心配するのは当然のことだろう。ディルもそれは承知しているはずだ。

「プリシラ様。このワインレッドのドレスなどいかがですか?艶やかでディナーにはぴったりかと。それか、こちらのアイスブルーのものは?」
リズの差し出してくれたドレスは、いまの季節にふさわしい涼やかなアイスブルーの生地に純白のレースが幾重にも重なる、とても繊細なデザインで、プリシラもお気に入りの一着だった。

「さすがリズ。私の好みをもう把握してくれてるのね!‥‥でも、ごめんね。今日はあのブルーグレーのドレスにするわ」
プリシラは奥の方にある、あまり目立たないドレスを指差した。
「これですか?ーー少し地味じゃないでしょうか」
リズが広げたそのドレスはくすんだブルー。装飾はほとんどなく、ウエストにゴールドのサテンリボンが巻かれただけだ。
「いいの。これを着るわ。ドレスがシンプルだから、髪はおろしたスタイルをお願いできる?」
ブルーグレーはディルの瞳の色。彼の隣に並ぶのならば、このドレスがもっとも映えるだろう。
「なるほど。その美しい金髪をアクセサリーにするんですね。とっても素敵になると思います!」
リズもイメージがわいてきたのか、テキパキと準備をすすめてくれる。
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