次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「プリシラ」
婚約者がフレッドではなく最初からディルだったら‥‥。そんななんの意味も持たない、馬鹿な想像は、ディルの呼び声によって中断させられた。
「あぁ、ごめんなさい。なに?」
「わざわざミモザの宮まで迎えに行ったのは、二人きりでしたい話があったからだ」
「えっ?」
「人手不足の宮とはいえ、ディナーの席ではターナや給仕の者が目があるからな」
「あぁ、そうよね」
ディルがなにを言おうとしているのか、プリシラには見当もつかなかった。ディルの表情からは、なんの感情も読み取れない。
「お前との結婚の話だが、王太子就任と同様に承諾した。すぐに婚姻の儀の準備に入るだろう」
ディルはまるでひと事のように、淡々と語った。
王太子就任と同様に‥‥つまり、責務として結婚を受け入れたということか。
それはプリシラも同じだった。
それなのに‥‥プリシラは両手でぎゅっと胸元をおさえた。なぜ、この胸は鈍い痛みを訴えてくるのだろう。
ディルはそんなプリシラの様子には気づかず、皮肉めいた笑みを浮かべた。
「まぁ、この婚姻は形だけのものだ。お前が心の内に誰を思っていようが‥‥なんなら外に恋人を作ろうが、俺はちっとも構わない。俺の方も‥‥自由にさせてもらう」

形だけの婚姻。なにも自分たちだけに限った話ではない。王族や貴族の結婚などは、みな利害関係に基づく政略結婚なのだ。仲睦まじい夫婦もいないわけではないが、恋人を外に求めるのは上流社会では普通のことだった。




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