次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
ディルに言われるまでもなく、そんなことはプリシラだって百も承知だ。彼が恋人たちとの関係を続けていくことなど、容易に想像できることだった。
それにもかかわらず、プリシラは自分の心がすうっと冷えていくのを感じた。
「もちろん。私の方も全く構わないわ」
なんでもない顔をして、そう答えたいのに、うまく言葉を紡ぐことができない。
(わかっていたことじゃない。ディルは最初から私にはなんの感情も抱いていない。私はとうの昔に振られているんだから‥‥)
フレッドのことがなくとも、たとえ最初からディルが婚約者だったとしても、きっと今と同じセリフを突きつけられたことだろう。
義務としての結婚。彼はプリシラの心など欲してはいないのだ。

「ーーそうね」
震える声で、それだけ返すのが精いっぱいだった。
気がついてしまったから。こんな結婚は不本意だと、フレッドを待ち続けると言いながら‥‥心の片隅でディルとの結婚を嬉しく思っている自分に。

(なんて馬鹿で、最低な女なんだろう)
プリシラは激しく自分を責めた。そして、心にかたく誓った。
(ディルへの気持ちには、蓋をしよう。もう二度と開けてはいけない。しっかりと鍵をかけて、心の奥底に沈めてしまおう)

立派な王太子妃として、国民のために生きればいいのだ。感情は捨てて、責務を果たすことだけを考えればいい。



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