次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
3、黒い噂と深まる謎
結婚式を明日に控えたその日、プリシラは国王陛下と王妃に謁見することとなった。祝福の言葉を賜るという、婚礼の儀式のひとつだ。
いかにロベルト家の娘といえども、国王夫妻と言葉を交わすなど初めてのことだった。数段高い位置にある玉座を前にすると、緊張で足が震えた。
「よい、顔をあげよ」
陛下にうながされて、まずはディルが、続いてプリシラも、おそるおそる前を向く。真紅の絨毯の上に黄金に輝く玉座が置かれ、そこに座る陛下が自分たちを見下ろしていた。
陛下の姿にプリシラは少なからず衝撃を受けた。数年前の建国祭で、王宮のバルコニーから姿を見せた時とはすっかり別人のようになっていたからだ。恰幅のよかった体は痩せ細り、恐ろしく感じるほどだった力強い声も弱々しくしゃがれていた。病がかなり進行していることは、隠しようもなかった。
それでも陛下は気丈に、祝福の言葉を述べた。決まりきった文言の後に、ひとことだけ陛下自身の言葉も聞かせてくれた。
「ロベルト家の娘よ。そなたが良き王妃となることを期待している」
「はい。偉大なる陛下のミレイア王国のため、誠心誠意尽くすことを誓います」
だが、プリシラには言葉をかけてくれた陛下がディルのことは最後まで目に入れようともしなかった。ディルはそれを気にもとめていなかったが、それが余計にこの親子の確執を感じさせて、プリシラは心が痛かった。
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