次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
そんな重苦しい空気をものともせず、ルワンナ王妃だけがひとり楽しげに話をする。
「王太子宮の侍女の数は少なすぎるのじゃないかしら?ディル、足りないものは遠慮せずに申告なさいな。それからーー」
ルワンナ王妃はプリシラの頭からつま先までをじっくりと眺めて、ため息をついた。
「ドレスも首飾りも地味ねぇ。王太子妃がそんなんじゃ、国の威信にかかわるわ。そうだ!私が新しいものをプレゼントしてあげる。ダイアモンドかルビーか、どれが似合うかしら。ドレスは流行のものがいいわよね」
まるで年若い乙女のように、華やいだ声をあげた。
噂通りの派手な美女だが、噂より悪い人ではないのかもしれない。プリシラはそんなふうに思った。王妃は意地悪で冷たい女性だと言われているが、それは他国出身の王妃に対する偏見がまじっているのかもしれない。
(よかった、義理とはいえお母様になる方だものね)
プリシラはほっとして、王妃に笑顔を返した。が、隣のディルは賑やかにはしゃぐ王妃を冷めた目で見つめていた。

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