次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
立派な公爵令嬢になることは幼いころからの目標で、自分の恵まれた環境に不満など抱いたこともなかった。けれど、ほんの少しの寂しさをずっと消すことができなかったのかもしれない。
公爵令嬢ではないプリシラ自身を必要としてくれる人はいるのだろうか?愛してくれる人は?
たが、肩書きのないプリシラ自身になにかの価値があるのか?その問いに正面から向き合ったこともなかった。無意識に避けていたのだろう。けれど、いま、初めて向き合ってしまった。そして、気がついてしまった。
(私は無力だわ。美しいドレスも王太子妃の地位も、お父様の娘だから得られたもの。私自身がディルの為にできることなんて、なにもないじゃない)
自身の才覚のみで王太子の地位を確立しようと苦心しているディルにとって、プリシラの甘さは腹立たしいものだっただろう。そのうえ、あんな八つ当たりまがいのことまで言ってしまった。
(ディルのあんな顔、初めて見たわ。ひどく怒らせてしまったのかも‥‥謝りたいけど、どう話せばいいのかしら)
ディルとはことごとくすれ違い、喧嘩になってばかりだ。形だけの妻、その役割すら満足にこなせない情けない自分。プリシラは頭を抱え、途方にくれてしまった。
「‥‥とりあえず、これを届けなきゃね」
プリシラは抱えた荷物に視線を落として言った。当初の目的を思い出したプリシラが歩き出すのと、薬草園の奥、背の高い植物の影から人が出てくるのが同時だった。男性二人組のようだ。
あちらはまだプリシラの存在には気がついていない。
(王宮医師団の先生かしら? それならご挨拶をーーあれ?)
一人は知らない男だった。だが、もう一人は‥‥。
「ナイード⁉︎」
父の部下であるナイード、その人だった。意外な人物に驚き、プリシラは思わずしゃがみこみ、花壇の影に身を隠した。
公爵令嬢ではないプリシラ自身を必要としてくれる人はいるのだろうか?愛してくれる人は?
たが、肩書きのないプリシラ自身になにかの価値があるのか?その問いに正面から向き合ったこともなかった。無意識に避けていたのだろう。けれど、いま、初めて向き合ってしまった。そして、気がついてしまった。
(私は無力だわ。美しいドレスも王太子妃の地位も、お父様の娘だから得られたもの。私自身がディルの為にできることなんて、なにもないじゃない)
自身の才覚のみで王太子の地位を確立しようと苦心しているディルにとって、プリシラの甘さは腹立たしいものだっただろう。そのうえ、あんな八つ当たりまがいのことまで言ってしまった。
(ディルのあんな顔、初めて見たわ。ひどく怒らせてしまったのかも‥‥謝りたいけど、どう話せばいいのかしら)
ディルとはことごとくすれ違い、喧嘩になってばかりだ。形だけの妻、その役割すら満足にこなせない情けない自分。プリシラは頭を抱え、途方にくれてしまった。
「‥‥とりあえず、これを届けなきゃね」
プリシラは抱えた荷物に視線を落として言った。当初の目的を思い出したプリシラが歩き出すのと、薬草園の奥、背の高い植物の影から人が出てくるのが同時だった。男性二人組のようだ。
あちらはまだプリシラの存在には気がついていない。
(王宮医師団の先生かしら? それならご挨拶をーーあれ?)
一人は知らない男だった。だが、もう一人は‥‥。
「ナイード⁉︎」
父の部下であるナイード、その人だった。意外な人物に驚き、プリシラは思わずしゃがみこみ、花壇の影に身を隠した。