次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
(いやいや、なんで隠れるのよ。別に薬草園は立入禁止でもないし、見られたって構わないはずよ)

そう思いつつも、プリシラは立ち上がらなかった。苦手なナイードと話をするのが億劫な気持ちが半分、残り半分は‥‥ナイードが薬草園にいるのがどうも不自然に感じたからだ。ただの散歩なら中庭で十分なはず。なんとなく嫌な予感がした。
ナイードと見知らぬ男はプリシラの隠れる花壇に近づいてくる。それにつれ、徐々に二人の会話もはっきりとしてくる。

「‥‥王子の処分はどうした?」
「あぁ、もう済んだ。万事、予定通りだ」

思わず声をあげそうになるのを、なんとかこらえた。息を殺し、気配を消して、二人が去るのを待った。

「ーー空耳じゃないわよね?」
王子‥‥この国でそう呼ばれる人物は二人だけだ。ディル‥‥はついさっき会ったばかりだし、側近くにターナが控えていたから身の安全はたしかなはずだ。
となれば、今の会話の王子とは?他国の王子の可能性もなくはないがーー。
「フレッドのこと!? ナイードはなにか知ってるの?」

処分とはどいいう意味だろうか。ナイードはフレッド失踪にどう関わっているのだろうか。
頭の中に次々と疑問が浮かんでくるが、どれひとつとして答えは出せない。

「ナイードがなにか関わっているかも知れないこと、お父様は知っているのかしら。っ、まさか‥‥」

恐ろしい考えが頭をよぎる。消そうと思っても、こびりついて離れない。
フレッドがいなくなって得をした人物。ディル以外にもいるのではないだろうか。それはーー。











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