次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「殿下の言う〈近頃〉は随分と長い期間を指すんですねぇ」
少し離れて、事の成り行きを見守っていたターナがゆっくりと近づいてくる。涼しい顔をして、会話はしっかり聞いていたようだ。
「うるさい」
ディルは眉間に深い皺をよせて、ターナを迎える。
「殿下。余計なお世話を承知で言わせてもらいますと、なにごとも言い方ってものがあるかと‥‥」
「わかってる。‥‥から、いちいち傷口に塩を塗るようなことを言うな」
ディルは小声でぼやいた。すると、ターナは、彼にしては非常に珍しく、くしゃりと顔をほころばせて、声をたてて笑った。
「ははっ、ははは。百戦錬磨の遊び人、ディル殿下の名が泣いてますよ」
ターナの言う通りだ。誰に教わった覚えもないが、ディルは昔から女性の扱いにたけていた。相手の気をひく振る舞い、一瞬でその気にさせる台詞、そんなものは考えなくとも自然に身についていた。
そこがまた、『所詮は生まれが卑しい』などという陰口をたたかれる要因にもなっているのだが‥‥。
「プリシラだけは別だ。どうしても他の女と同じようにはいかない」
ディルは素直に弱音を吐いた。プリシラを前にすると、まるで子どものようになってしまうことは嫌というほど自覚していた。
「その顔を見せてあげれば、もはや言葉は要らないような気がしますけどね」
ターナがぽつりとつぶやいた台詞はディルの耳には届かない。
「まぁ、でも、しばらくはロベルト公爵との接触には慎重になった方がいい。プリシラは違う意味にとらえたようだが‥‥おとなしくしててくれるのなら、結果的にはよしとしよう」
「プリシラ様をお父上の不穏な噂から遠ざけたいんですね。気持ちはわかりますけど」
はっきりとは言わなかったが、ディルの思惑などターナにはお見通しのようだ。
少し離れて、事の成り行きを見守っていたターナがゆっくりと近づいてくる。涼しい顔をして、会話はしっかり聞いていたようだ。
「うるさい」
ディルは眉間に深い皺をよせて、ターナを迎える。
「殿下。余計なお世話を承知で言わせてもらいますと、なにごとも言い方ってものがあるかと‥‥」
「わかってる。‥‥から、いちいち傷口に塩を塗るようなことを言うな」
ディルは小声でぼやいた。すると、ターナは、彼にしては非常に珍しく、くしゃりと顔をほころばせて、声をたてて笑った。
「ははっ、ははは。百戦錬磨の遊び人、ディル殿下の名が泣いてますよ」
ターナの言う通りだ。誰に教わった覚えもないが、ディルは昔から女性の扱いにたけていた。相手の気をひく振る舞い、一瞬でその気にさせる台詞、そんなものは考えなくとも自然に身についていた。
そこがまた、『所詮は生まれが卑しい』などという陰口をたたかれる要因にもなっているのだが‥‥。
「プリシラだけは別だ。どうしても他の女と同じようにはいかない」
ディルは素直に弱音を吐いた。プリシラを前にすると、まるで子どものようになってしまうことは嫌というほど自覚していた。
「その顔を見せてあげれば、もはや言葉は要らないような気がしますけどね」
ターナがぽつりとつぶやいた台詞はディルの耳には届かない。
「まぁ、でも、しばらくはロベルト公爵との接触には慎重になった方がいい。プリシラは違う意味にとらえたようだが‥‥おとなしくしててくれるのなら、結果的にはよしとしよう」
「プリシラ様をお父上の不穏な噂から遠ざけたいんですね。気持ちはわかりますけど」
はっきりとは言わなかったが、ディルの思惑などターナにはお見通しのようだ。