次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「どうかしら?なんとか見られるようになった?」
プリシラは猛スピードで化粧と髪を直して、ディルの方を振り返った。普段は侍女がやってくれるので、あまり得意ではないが、身支度くらいは自分でもできるよう教育されている。
「いいんじゃないか?箱入りお嬢様が自分で頑張ったにしては上出来だ」
「もう。いちいち嫌味なんだから‥‥」
「ただーーこの紅はちょっと濃すぎるかな」
ふいにディルが顔を近づけてくる。唇が触れ合いそうな距離に、プリシラは思わず目をつむった。
そして、唇にやわらかいものがーー。
(えっ‥‥この感触って、もしかして‥‥)
「わっ。ちょっと、待っ‥‥」
プリシラが目を開けると、ディルが挑発的な顔をして、にやりと笑った。
「ふっ。唇で拭ってやった方がよかったか?」
「あっ‥‥」
ディルが自分の親指をプリシラに向けてみせた。その指先は真紅に染まっている。
(嘘っ。勘違いって‥‥恥ずかしすぎる)
プリシラは羞恥心で耳まで赤くなった。ディルの顔をまともに見ることもできない。

「酔いだけでなく、少しは頭もすっきりしたか?あれこれ悩んでも仕方ないこともあるぞ」
ディルが穏やかな声で言った。プリシラは目を丸くして、彼を見返す。
「気がついてたの?」
「なにを悩んでるかは知らないが、お前が大事な公務に寝不足でのぞむなんてよっぽどだろ」
「心配かけてごめんなさい。そうね、なんだかスッキリしたみたい」

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