次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「ハ、ハネムーン⁉︎」
「えぇ。だってあなたたち新婚でしょ?王宮はなにかと堅苦しいだろうし、旅行気分でゆっくりしていってちょうだいね。うふふ、部屋は離れのほうに用意してるの。私たちは邪魔しないからね〜」
「えっ、あの、その‥‥」
(冗談?本気?気を遣ってくださってるのだから、ありがとうございますって言うべき?)
生真面目に考えこんでしまったプリシラをみかねて、ディルが話をつないだ。
「これは世間知らずなんで、あんまりからかわないでやってください。ところで、スワナ公はどちらに?」
ディルは城の主人であるマリー妃の夫の姿を探した。
「あぁ、ごめんなさい。この国の中央を流れるミミス川の堤防の一部が決壊してしまったらしくて‥‥あの人ったら、様子を見てくるって出て行っちゃったのよ。あなたたちを出迎えるんだからダメよって言ったんだけど」
マリー妃は申し訳なさそうに頭を下げた。
「いや、俺たちは構わないですよ。帰国前にご挨拶できれば、それで十分です」
「明日の昼には戻ってくると思うわ」
「‥‥堤防の決壊って、そんな危険なところにスワナ公自らが視察に行かれるんですか?」
プリシラが問うと、マリー妃は笑った。
「視察なんてそんな立派なものじゃないのよ。おおかた、修理をしてくれる人工たちと酒盛りでもしてるんでしょう」
プリシラが目を丸くしていると、ディルが説明してくれる。
「スワナ公は国民に寄り添う政治を行うことで有名だ。民からとても人気がある」
「ミレイアと違って、ここは本当に小さな国だから。あの人は隅々まで知っておきたいって主義なの。おかげで、連れ回される私もすっかり日に焼けちゃったわ。私も若い頃は、あなたみたいに深層の姫君だったのにねぇ。ま、太っちゃったのは食べ過ぎが原因だけど」
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