次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「スワナは宝石とならんで、食事がうまいことも有名でしたね。楽しみです」
ディルが言うと、マリー妃は大きくうなづいた。
「そうよ。早速、食事にしましょうか」
マリー妃の案内で食堂に向かう。その道すがら、妙な視線を感じてプリシラは振り返った。視線の主はあわてて柱の影に姿を隠したようだったが、かわいらしい花柄のスカートの裾が残っていた。

「マリー様。あの‥‥」
プリシラが後ろを気にする素振りを見せると、マリー妃はすぐに状況を把握した。
「こらっ!そのドレスはエリーね」
柱からぴょこんと顔をのぞかせたのは、まだあどけなさの残る少女だった。
(十歳くらいかしら。とっても、かわいい子)
ふわふわの金髪にくりっとした大きな瞳、えへへと照れたように笑った顔がなんとも愛らしい。
「ごめんなさい、お母様。でも、王子様に早く会いたかったんだもの」
「もう。後できちんと紹介するから先に勉強を済ませておきなさいと言ったでしょ」
マリー妃は母の顔になって、娘をたしなめた。
「公女様ですか」
プリシラかたずねると、マリー妃は娘を手招きして呼び寄せた。
「躾がなってなくて、ごめんなさいね。長女のエリーよ。来月で十歳になるわ。この子の下に妹が三人。それと産まれたばかりの長男の五人姉弟よ」

「はじめまして。エリー姫」
ディルはエリーの小さな手を取ると、身をかがめて、甲に軽く口づけする。十歳は一人前のレディだと判断したのだろう。まさしく王子様といったディルの姿に、エリーは頬を染めた。
「素敵! なんて、かっこいいのかしら。ねぇ、エリーをお嫁さんにしてくれる?」
押しの強さは母親譲りだろうか。ディル
がらしくもなくうろたえているのが、なんだかおかしい。



< 64 / 143 >

この作品をシェア

pagetop