次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「あともうひとつ。ロベルト公爵はお前を愛してる。それは間違いない。可愛い娘を託すのに、フレッドと俺とどっちがいいか。そう考えると、ロベルト公爵が犯人とは思えないんだよ」
「けど、そうしたら犯人はいないってことになっちゃうじゃない?」
ディルが自分の父親を疑わないでいてくれることは嬉しい。ディルの言うとおりだったらいいのにと思う。だが、ロベルト公爵でないなら誰が犯人だというのか?
部屋にはふたりきりなのに、ディルは声をひそめた。
「フレッドがいなくなって得する人間は他にもいる。ーールワンナ王妃だ」
思ってもいなかった人物の名があがったことにプリシラは目を丸くして驚いた。
「今は王妃として贅沢三昧だが、フレッドが王位につけばそうはいかなくなるだろう」
ルワンナ王妃とは結婚式の前に少しだけ話をした。天真爛漫なお姫様がそのまま大人になったような女性だった。よく言えば無邪気、悪く言えば思慮が浅い、そんな印象を受けた。
たしかに派手好きで贅沢ではあるようだが、策略を巡らすようなタイプには見えなかった。
「それに、ルワンナ王妃には子がいないわ。フレッドやディルがいなくなっても彼女の立場は変わらないんじゃない?」
誰が王位を継いだとしても、彼女は前王妃になるだけだ。
「フレッドと俺の次、王位継承権第三位にあたる男子はかなり血が薄くなるうえに友好国とはいえないエスファハン帝国で生まれ育っているんだ。彼が即位するとなれば、反対の声が多くあがると思う」
その話はプリシラも聞いたことがあった。かつて、生母の身分や不吉な予言を理由にディルの王位継承権を剥奪せよという意見もあったが、王位を継ぐにふさわしい男子がほとんどいないことを理由にディルの王位継承権は認められたという話だ。つまり、そのエスファハン帝国の男子には継がせたくないのだ。


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