次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「ルワンナ王妃には甥が数多くいたはずだ。たとえば、そのうちのひとりを養子にして‥‥という提案をするつもりなのかもしれない。王妃本人というより故国であるソルボンが裏にいる可能性もある」
とっさの思いつきではなく、ディルはルワンナ王妃についてある程度探っていたのようだ。疑うだけの根拠もあるのかもしれない。
「でも、ミレイア王家とはまったく血縁がないことになるわよね?」
「だが、他国では実際にそういう方法を取ったケースもあるぞ。個人的には、無能な実子より有能な養子をという考え方は悪くないと思う」
ミレイア王国は血統を大切にしてきたが、いつまでもそれが続くとは限らない。転換期が次代の王になるかもしれない。ディルが言いたいのは、そういうことだろう。
「でも、フレッドがいなくてもあなたがいるじゃない!フレッドだけ排除してもルワンナ王妃にメリットはないような‥‥」
話しながら、プリシラは嫌なことに気がついた。ディル犯人説の噂の出所はどこだろうか。いつのまにか真実かのように語られているが、本当に事実にされてしまわないだろうか。
プリシラの考えていることに気がついたのだろう。ディルは神妙な顔でうなずいた。
「そうだ。今後もし、俺が排除されるようなことがあったら、ルワンナ王妃は怪しいと思う。そのときはロベルト公爵なりザワン公爵なりと協力して‥‥」
自分の身に危険が迫っているかもしれないというのに、ディルはまるで他人事のように淡々としている。
ディルは何事にも、自分の生にすら、執着しない。プリシラはもどかしかった。
ディルになにかあったら悲しむ人間がいることを、どうしてわかってくれないのだろうか。
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