次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「‥‥え、えぇ⁉︎」
一瞬、頭が真っ白になった。そして、ディルの言葉の意味を理解したときには、足元から力が抜け、ぺたりと床に座り込んでしまっていた。プリシラは恨めしげにディルを見上げる。
「そ、そんなこと言われたら、こっちも一睡もできないじゃない」
ディルはプリシラと目線を合わすようにかがみこむと、満足気に微笑んだ。
「眠らせないために言った台詞だからな。効果があって、なによりだ」


「おい。いくらなんでも、そこじゃ朝には床に落ちてるぞ」
ふたりで横になっても十分な広さのあるベッドの端っこにプリシラは小さく丸まっていた。ディルが呼びかけても、振り向きもしない。
「ついこの間は、一緒に寝ればいいとか平気な顔で言ってたじゃないか」
「だ、だって、ディルが変に意識しちゃうようなこと言うから。と、とにかく、私はいないものと思って、気にせず寝てください」
プリシラは消え入りそうな声で言うと、するすると布団を頭までかぶせて姿を消した。その様子を眺めながら、ディルはくしゃくしゃと頭をかいた。
(効果ありすぎだったな‥‥)
プリシラは自分はいないものと思えと言ったが、それは到底無理だ。プリシラと同じく、いや、もしかしたらそれ以上に、ディルのほうだって意識はする。
ディルは薄暗い天井を見つめながら、置かれた状況について考えてみた。
たとえば、これがターナや友人の話だったらどうだろうか。そう考えると、答えはとても簡単だった。
『絶好のチャンスじゃないか。ここで動かないなんて、とんだ臆病者だ』
『男には多少の強引さも必要だよ』
自分なら間違いなくそうアドバイスするだろう。いまは押すべきときなのだ。
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