能ある鷹は恋を知らない
押されたスイッチ
目の前にはきらきらと輝く有名なブリッジ。夜も更けてきたにも関わらず点滅する無数の車のライト。巨大なビル群は一様に赤い光を灯す。この街は眠ることはない。
思わずうっとりしても良いような光景なのに、どうも落ち着かない。

その理由は分かりきっていた。

左隣に院長、右隣には高島さん。
女性なら羨みそうな顔も頭も年収も平均を飛び越えた男性二人と『B.C.square TOKYO』54階のバーにいるという不可解極まりない状況のせいだ。

「あの、高島さん、どうしてここに?」
「仕事だと言っただろう」
「いえ、そうではなく。私と院長を誘ってくれた理由です」

そう言うと高島さんは少し眉間に皺を寄せて手元のウィスキー・ミストを一口飲んでから口を開いた。

「…この間の礼だ」
「光栄だね。『EAGLE・EXCEED』のCEOと飲める機会なんてそうそうないよ」
「え…CEO?」
「あれ、鮎沢ちゃん知らなかったの?」

知るわけない。会社の名前を知っていただけでそのトップが誰かなんて知ろうと思ったこともないし。
それより、確か『EAGLE・EXCEED』って創業10周年とか言ってたような。
高島さん私とそう年も変わらなさそうだけど。

「なんだ」

ちらと高島さんの方を見るとすぐにこっちの視線に気付いて振り向いた。
相変わらず綺麗な顔だ。無駄がないというか、端正な顔立ち。派手ではないのに目を奪われる。

「高島さん、まだお若いですよね」
「今年31になる。もう若くない」
「俺は33歳になるんだけど」
「きみはいくつなんだ」

院長の言葉を無視して高島さんは私を見た。
女性に面と向かって年齢聞くって…やっぱりこの人どこかずれてる。

「今年で27ですけど…高島さん、女性に年齢訊くのは良くないですよ」
「前にも言われたことがあるが」
「なら尚更訊かないでください」
「年齢を訊いて悪い理由が分からない」
「女性は年齢に敏感なんです」
「だからなぜだ。年齢を知って何が変わる」
「何がって…」

そういう女性心理は豊富そうな経験とかで学ばないのだろうか。というより、単に高島さんが気にしないだけなのか。

少し呆れたような気持ちでオレンジカラーの綺麗なバレンシアを一口飲んだ。
どう言えばいいか考えていると、高島さんは僅かに身体を近付けて私の顔を覗き込んだ。

ふわりと鼻に届く爽やかな香りに私を見つめる真摯な目が力強くて視線を外せない。

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