能ある鷹は恋を知らない
帰って来た私の服装に先週と同じ好奇心いっぱいの目で質問責めにする姉と義兄をなんとか撒き、バスルームに逃げ込んだ。

ちゃぽん、というお湯の波立つ以外の音のない空間に身体も心も解放するように力を抜いた。
この瞬間が一番リラックスできる。
最近は特に色々なことに巻き込まれて心が休まる時間が少ないように思う。

頭を空っぽにして目を瞑るとさっきまで一緒に居た高島さんの顔が浮かんでくる。

頬に触れる大きな手。真っ直ぐ見つめる切れ長の瞳。

高島さんは魅力的すぎるくらい素敵な人だ。
どんなにごまかしても自分が惹かれていることは事実。

だけど。

高島さんはちょっとした気まぐれで私に関わっているように思えてならない。
誘われるままついて行って、それきりになるくらいなら何もない方がましだ。

この間の恋愛の終わり方があれなのにもう無駄に傷つきたくない。

だからといって本気で相手にしてもらえるとも思わない。

そこまで夢見る乙女でも身の程知らずでもない。
だから、これはテレビの芸能人に恋をするようなものだ。
手の届かない人に憧れを抱いて胸を焦がすような。

今なら高島さんが私への興味を失って、特定の恋人ができたって傷つかない。
好きな芸能人の結婚にショックを受けても次の日には平気な顔ができる。そういうものだ。

また自分に言い聞かせるような言い方になっていることに見て見ぬふりをしつつ、身体をゆっくり沈めるように顔の下まで潜った。

形の定まらない高島さんへの気持ちがまるでシャボン玉のように宙ぶらりんになって浮かんでいるようだった。



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