能ある鷹は恋を知らない
「高島さん…どうして」
「何か忘れ物でも?」
驚きを隠せない私に対して院長が平然と投げ掛ける。
何この空間。どこから説明しようにも、こんなところじゃ…。
戸惑っていると高島さんは靴も脱がずに引き返そうとした。
「いや、勘違いだったようだ。すまない」
「え、あのっ」
そのまま高島さんは出ていってしまい、追いかけることも出来なかった。
どうしてこんなことに。
絶対勘違いされた。
焦燥感が募ってその場で立ち尽くす私に院長の声がした。
「鮎沢ちゃん」
「え、はい…」
「とりあえず、仕事に戻ろうか」
「…はい」
目の前がぐるぐる回りそうだったがなんとか仕事場であることを思い出し、スペースに戻って仕事を再開した。
思考が泳ぎそうになっては振り切り、何も考えないように作業に集中する。
そうしないとすぐに手が止まってしまうからだった。
事態がどんどん複雑になってる気がする。
誤解を解きたい。
でもなんて言うの?
そもそもそんな言い訳が高島さんに必要だろうか。
恋人でもない人に。
でも私が好きなのは高島さんなんだから。
それって告白するってこと?
もしそれでそんなつもりはないって言われたら。
どっちにしても良い事態になり得る気がしない。
考えれば考えるほど煮詰まっていく思考にため息をついては現実を思い返して仕事を再開する。
そんなことを繰り返して一日が過ぎていった。
「受付締めましたー」
舞子の声が聞こえてもうそんな時間になったのかと時計を見る。
まだ高島さんに会って何を話すのか全く纏まっていなかった。
チェアの掃除と片付けをしながらこの後をどうするか考えていると、院長が顔を出していた。
「わ、びっくりした…何ですか、院長」
「悩んでるね」
「唐突に現れて人を見透かすようなこと言うの止めてください」
「図星だ」
「…悩んでません」
「高島くんに俺の婚約者だって誤解されたこと?」
「…っ」
ずばり言い当てられて思わず反応してしまう。
院長はにやりと笑って近付いてくる。
「そんなに俺の婚約者が嫌って?」
「何言ってるんですか。縁談断るための口実なだけじゃないですか」
「俺は口実じゃなくても良いんだけど」
「もう、また何言って…」
いつもの冗談をかわすように笑って振り替えると院長は真顔で私を見ていた。
「俺の婚約者になるのは嫌?」
「院長…またそうやってからかうの良くないです」
「冗談じゃないって言ったら?」
「どうしたんですか…らしくないですよ」
胸が嫌に速く脈を打つ。
どうせいつもみたいに途中で笑って冗談にするつもりだと思うのにその顔で見つめられると言葉に詰まる。
「らしくない、ね。確かにそうかもしれない。思っていたよりきみのこと気に入っていたみたいだ」
そっと伸ばされた手が頬に触れる。
ぴくりと反応したけれど、何故か動けなかった。
「高島くんのところに行く?」
「ど…して…」
「行かせたくない」
不意に引き寄せられて驚く間もなく唇が重なっていた。
「何か忘れ物でも?」
驚きを隠せない私に対して院長が平然と投げ掛ける。
何この空間。どこから説明しようにも、こんなところじゃ…。
戸惑っていると高島さんは靴も脱がずに引き返そうとした。
「いや、勘違いだったようだ。すまない」
「え、あのっ」
そのまま高島さんは出ていってしまい、追いかけることも出来なかった。
どうしてこんなことに。
絶対勘違いされた。
焦燥感が募ってその場で立ち尽くす私に院長の声がした。
「鮎沢ちゃん」
「え、はい…」
「とりあえず、仕事に戻ろうか」
「…はい」
目の前がぐるぐる回りそうだったがなんとか仕事場であることを思い出し、スペースに戻って仕事を再開した。
思考が泳ぎそうになっては振り切り、何も考えないように作業に集中する。
そうしないとすぐに手が止まってしまうからだった。
事態がどんどん複雑になってる気がする。
誤解を解きたい。
でもなんて言うの?
そもそもそんな言い訳が高島さんに必要だろうか。
恋人でもない人に。
でも私が好きなのは高島さんなんだから。
それって告白するってこと?
もしそれでそんなつもりはないって言われたら。
どっちにしても良い事態になり得る気がしない。
考えれば考えるほど煮詰まっていく思考にため息をついては現実を思い返して仕事を再開する。
そんなことを繰り返して一日が過ぎていった。
「受付締めましたー」
舞子の声が聞こえてもうそんな時間になったのかと時計を見る。
まだ高島さんに会って何を話すのか全く纏まっていなかった。
チェアの掃除と片付けをしながらこの後をどうするか考えていると、院長が顔を出していた。
「わ、びっくりした…何ですか、院長」
「悩んでるね」
「唐突に現れて人を見透かすようなこと言うの止めてください」
「図星だ」
「…悩んでません」
「高島くんに俺の婚約者だって誤解されたこと?」
「…っ」
ずばり言い当てられて思わず反応してしまう。
院長はにやりと笑って近付いてくる。
「そんなに俺の婚約者が嫌って?」
「何言ってるんですか。縁談断るための口実なだけじゃないですか」
「俺は口実じゃなくても良いんだけど」
「もう、また何言って…」
いつもの冗談をかわすように笑って振り替えると院長は真顔で私を見ていた。
「俺の婚約者になるのは嫌?」
「院長…またそうやってからかうの良くないです」
「冗談じゃないって言ったら?」
「どうしたんですか…らしくないですよ」
胸が嫌に速く脈を打つ。
どうせいつもみたいに途中で笑って冗談にするつもりだと思うのにその顔で見つめられると言葉に詰まる。
「らしくない、ね。確かにそうかもしれない。思っていたよりきみのこと気に入っていたみたいだ」
そっと伸ばされた手が頬に触れる。
ぴくりと反応したけれど、何故か動けなかった。
「高島くんのところに行く?」
「ど…して…」
「行かせたくない」
不意に引き寄せられて驚く間もなく唇が重なっていた。