能ある鷹は恋を知らない
どうしてここに御堂さんが。
そう思ったけど理由は一つしかない。
高島さんと会っていたに決まっていた。

「どうしてここに?」

その目は私みたいな庶民がなんでこんなところにいるのかと訴えていた。

「まさか、穂積に会いに来たとか?」
「…だったら何ですか」
「…あなた、土曜も穂積の部屋から出てきたんでしょう」
「…っ」

思わず反応してしまうと御堂さんはくすりと笑った。

「やだ、一回相手にしてもらったからって穂積が本気になるとでも思ってるの?貴女みたいな女がどれだけいると思ってるの」

そわなこと。あなたに言われなくたって。

「穂積は誰にも本気になんかならないわ。そういうのが面倒な男なの。ちゃんと恋愛してたのは…私くらいじゃないかしら?」

それを聞いてどこか納得したように思えた。
やっぱり御堂さんは高島さんと関係があった。
二人で名前を呼び合っていたからなんとなくそんな気はしていた。

「だから、何ですか。それと私の気持ちは関係ありません」
「…どうでもいいけど、穂積は忙しいの。早く部屋に帰って来てって伝えておいて」

そう言って廊下にヒールの音を響かせながら御堂さんは歩いていった。

悔しい。戦う土俵が違うと言われたみたいだった。

それでも、私は自分の気持ちと向き合うと決めた。

泣くならフラれてからだ。

涙の滲みそうな悔しさを噛み締めて拳を握りしめた。

バーの入り口から覗くとカウンターに座った高島さんが見えた。
後ろ姿を見ただけで鼓動が早くなる。

キイっという音を立ててドアを押し開く。
カウンターに近づいていくと高島さんが振り返った。

「こんばんは」
「ああ…」

言いながら高島さんの左隣のスツールに腰掛ける。
高島さんの顔を見るといつもの無表情だった。

適当なカクテルをオーダーする。
カクテルが置かれるまで高島さんはずっと無言だった。

「…場所を変えてもいいか」
「え?」
「俺の部屋でもいいかと聞いている」
「でも…」
「もう俺の部屋には来れないってことか」
「そんなんじゃなくて…」

さっき、御堂さんが待ってるって。

「それとも今さら婚約者に罪悪感があるとでも?」
「誤解です!私に婚約者なんていません」
「昼間は仲良く肩も組んでたみたいだが」
「それも誤解です…っだいたい、何でそんなこと高島さんに言われないといけないんですか。高島さんだって、御堂さんと付き合ってたんじゃないんですかっ」

勢い余って口が滑る。
こんなこと言いたい訳じゃないのに。

「由加梨?どうして今由加梨の話が出る」
「…ついさっきまで一緒に居たんでしょう?さっき会ったんですよ。高島さんを早く部屋に返してって…っ」

そこまで言って涙が堪えられなくなり、席を立った。
すぐにバーを出てエレベーターへ向かう。

こんなつもりじゃなかったのに。
どうしてあんな風に言ってしまうんだろう。

エントランス行きのエレベーターが開き、乗り込もうとしたその時、腕を掴まれて引き戻された。

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