能ある鷹は恋を知らない
「きみが分からない。誘っているような顔をしたかと思えばこうして涙を見せる」
「私だって…っ高島さんが分かりません…気まぐれに私を誘ったり、まるでこんな嫉妬してるみたいに突然キスしたり…っ」

こんな奪うようなキスされたら期待してしまう。
だけど、高島さんに本気になってもらえるなんて思えない。
嬉しいと恐怖が共存しておかしくなりそう。

高島さんの胸にもたれ掛かるようにして涙を溢した。
うまく言葉にならない気持ちが胸を渦巻いて苦しい。

ふと高島さんの手が頭に添えられた。
優しくて温かい大きな手だった。

「こんな…誰かに執着するのは初めてで、どうしていいか分からない」

耳元に低く静かな声が呟かれた。

「え…?」
「きみのことを考えると落ち着かない。…この間、俺の元に縋るように来たきみを見て手に入れたと思ったのに、目が覚めるときみは居なくなっていた」

その声はなんだか苦しそうで、私を抱き締めた高島さんの手に力が入ったのが分かった。

「きみは俺の予想をことごとく裏切る。今までの経験が役に立たない。そもそも、誰かを手に入れたいと思うことがなかった」

そんな言い方されたら、まるで私のことを欲しいみたいに聞こえる。

高島さんは腕を離して至近距離で目を合わせた。

「きみは着飾らせても食事に連れていっても心から喜ばない。なのに、月を見ただけであんなに嬉しそうな顔をする。今まできみのような女に会ったことはない。きみを手に入れるためにどうすればいいか分からない」

その表情はなんだか困ったような、答えの解けない問題を前にした子供のようで、思わず愛しい気持ちが溢れてしまう。

自然と高島さんの唇に口づけていた。
軽く触れるだけのキス。
高島さんは驚いたように私を見つめている。

「高島さん…私はあなたが好きです」

偽りのない気持ち。
どうにもコントロールのできない自分勝手な感情。
それでも、伝えたい。
あなたが求めてくれるのならどれだけでも。

「ずっと逃げてました。高島さんなんかに相手にされるわけないって。ずっと、惹かれていたのに…」
「芹香…」

名前を呼ばれるとそれだけで胸が熱くなる。
まだ潤んだままの瞳で高島さんを見つめると、今度はお互いが自然と近付いて唇を重ねた。

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