能ある鷹は恋を知らない

Moscow Mule

「だからただの同窓会だって言ってるじゃないですか!」
「男と女が3人ずつ会うのは同窓会じゃなくコンパだろう」
「違います!高校の部活が一緒だったメンバーで…」
「何の部活だ」
「テニス部ですけど」
「テニスなんて実態の伴わないいかがわしいサークルの代表じゃないか」
「大学のチャラいサークルと一緒にしないでください!大体、高島さんだって綺麗なお姉さんのいるお店で飲んだりするでしょう?」
「それは仕事の付き合いだ」
「異性の居る飲みの場という意味では同じです。とにかく明日は同窓会で会えませんから」
「どこへ行く」
「帰ります。今日は一緒に居たくない」
「夜中だぞ」
「タクシー呼びましたからお構い無く」
「芹香」

名前を呼ばれるのも無視して部屋を出た。

夜も日付が変わるという遅い時間にどうしてこんな言い合いになるのか。


それは数日前のことだった。


「え、同窓会?」
「うん、橋本たち、週末こっちにいるんだって」

久しぶりに高校時代の友人と会うことになり、晩ごはんを食べていたときのこと。

「橋本くんて、今沖縄で仕事してたっけ?」
「そう、木村はこの間帰国したって聞いた。あと岩井は奥さんが関西でそっちに住んでて、今出張で来てるって」
「すごいタイミング」
「そうでしょ?テニス部って私達の学年男女で6人しか居なくてあの頃はすごく仲良かったのに、全然会わなくなったからさ、久しぶりに集まりたいなって」

確かに、高校卒業してからもう何年も会っていない。
ほぼ10年ぶりの再会だ。

「うん、私も会いたいな」
「良かった!なっちゃんもオッケー取れたから、あと芹香だけだったんだ」

懐かしい友人との再会。それは仕事に追われる日々の息抜きにも嬉しい誘いだった。

「はー美味しかったね」
「うん、さすがもう東京出て長いよね。美味しいお店よく知ってる」
「芹香もすぐそうなるって」

ネオン煌めく喧騒の中歩いていると、ふと視界に見知った顔が見えた気がした。

「え、高島さん…?」

もう一度確認すると確かにそれは恋人の姿に間違いなかった。
着物を着た上品な女性と派手なドレスを着た若い女性二人に囲まれている。
一緒に居る男性の様子からして仕事の付き合いのように見えたが。

腕なんか組まれちゃって。

普段あまり見ない紳士的な笑顔が女性たちに向けられているのを見ると、自然ともやっとした気持ちが胸に渦巻く。
仕事の付き合いにどうこう言うほど大人げないつもりも面倒くさい女でもないつもりだ。
ただ、頭で分かっていてもいざ目にすると愉快な光景ではなかった。

「芹香、どうかした?」
「何でもない。帰ろう」

そのまま知らない振りをして通り過ぎた。

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