能ある鷹は恋を知らない
夜風がアルコールの入った身体を気持ちよく冷やしていく。
心なしか頭もすっきりしたように思えた。

少し道を歩き、人通りの少ない場所で鞄からスマートフォンを取り出した。

高島さんに連絡しよう。
謝って、仲直りしたい。

そう思って番号を呼び出そうとしたとき、背後から名前を呼ぶ声がした。

「鮎沢」

振り向くとそこに居たのは少し息を切らせた橋本くんだった。

「え、橋本くん?二次会は…」
「少し、二人で飲めない?」

どうして急に。
でも、さすがに二人で飲むことはできない。
何より、今私が会いたい人は一人だ。

「橋本くん、ごめんね。これから人と会うから…」
「…鮎沢のこと、好きだった」
「え?」
「高校の時。でも、お前先輩と付き合ってたから言えなくて…」

そんな話は寝耳に水だった。
全くそんなこと気付かなかった。そんな素振りがあった覚えすらない。

「そう…だったんだ。なんか、よくからかわれてたから全然知らなかった…」
「これでも隠してたから。…でも、卒業してから後悔した。気持ちを伝えなかったこと。今はもう後悔したくない」

そう言って橋本くんは一歩近付いて私の手を握った。

「え、あの、橋本くん」
「今日だけでも、俺に付き合ってくれないか」

突然の行動に困惑が先に来て腕を振りほどくこともできない。
橋本くんの目は真剣そのもので冗談で流せる雰囲気でもなかった。

「…頼む」

そう言って引き寄せられ、腕の中に抱き締められる。

「ちょ、だめだよ橋本くん…っ」

さすがにまずいと思って胸を突き離そうとしたとき、強い力で引き離され、別の腕の中に捕らわれた。

「俺の女に触るな」

耳に響く低く澄んだ声。
すぐ背後から香る、爽やかな香水の匂い。

それは今すぐに会いたいと思っていたその人、高島さんだった。

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