能ある鷹は恋を知らない
熱めのシャワーを浴びて汗を流す。
ベッドルームに備え付けのクローゼットを開けて新しい衣服を身に付けた。

この部屋に泊まりに来るようになってから、いつだったか高島さんにプレゼントされたものだった。

「これで急な泊まりも問題ない」

どうやら一度着替えがないことを理由に泊まりを断ったことが気に入らなかったらしく、その数日後に呼び出されたかと思えばクローゼットの前に連れて来られた。

どうだと言わんばかりの表情で大きすぎるクローゼットにかけられた目の前に広がる衣服たち。
シャツやスカート、パンツにワンピース。
急な泊まりと言わず一週間は着回せる量だった。

最初に着せてもらったドレスよりは安価とはいえ、どれも百貨店に入ったブランドばかりの品に絶句する。
全て上品でフェミニンなテイストで、私の好みにぴったりなだけではなく、サイズまでジャストなところが若干怖いくらいだ。

「ほんとに甘すぎる…」

その後必死にいくらなんでも常識からかけ離れていると抗議したものの、「きみに似合うものを選んだだけだ」と全く相手にされなかった。
仕方なく買うなら私が一緒の時にと約束させるのが精一杯だった。

それも全て私を想ってのことだと分かっているから結局高島さんには強く言えない。
しかしあまりに与えられる一方で何も返せていないことが気掛かりなのも事実だ。

「高島さん…何したら喜んでくれるんだろう」

鏡を見て服の裾を直しながら思案するも良い案は浮かばす、とにかく先に身支度を整えてしまおうとパウダールームへ向かった。

それから化粧を終え、髪も整えて準備が完了した。
カウンターの上のファイルを手に取り、カードキーを持って部屋を出る。

そういえば、高島さんの会社にはまだ一度も行ったことないな。

『EAGLE・EXCEED』といえば今急成長のIT企業だ。
たまに海外との提携などでニュースに取り上げられることもある。

どんなところなんだろう。

フロアに想像を巡らせるが一般企業に勤めたことのない自分には全くイメージが浮かばなかった。

エレベーターホールへ向かい、アッパービジネスフロアの受付がある27階へ降りた。

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