能ある鷹は恋を知らない
買ってしまった。

手元の可愛らしい紙袋にはランジェリーブランドのロゴ。

どうして買ったことのないランジェリーブランドを手にしているのかというと、それは数時間前に遡る。


街に出てランチを食べたあと、せっかく時間があるからと立ち寄ったヘアサロンの担当のお姉さんが、綺麗なダークブラウンの髪が肩下まで波打ったフェロモン美女だった。

「あの、失礼ですが、ランジェリーってどこのブランドをお使いなんですか」

思わず愛用の下着ブランドを聞いてしまった私にお姉さんはくすりと笑って教えてくれた。

「絶対、彼氏さん喜ぶよ」

耳元で囁かれると女性だというのに照れてしまう妖艶さ。
口元のホクロがより一層その艶やかさを増していた。

あの対応だと同じ事を聞かれたことが何度もありそうだ。

見た目にはあまり変えてはいないものの、軽くなった髪に心も浮き立ち、そのまま教えてもらったランジェリーショップに向かい、足を踏み入れた。

繊細なレースや豪華なアップリケのついたラグジュアリーなランジェリーがところ狭しと並ぶ。
値段を見るといつも使っているものより二倍ほど高い。

何よりセクシー過ぎる。

腰が引けそうになるが、今日はこれを買うために来たんだからと店内を見て回る。
声をかけてくれた店員さんにお任せすることにして、人生初ランジェリーのフルセットを揃えることになった。

そんなこんなでベッドルームの上にランジェリーを取りだし、改めて広げてみる。

濃いピンクを基調としたフェミニンなブラジャーは胸のサイドに大きな薔薇の刺繍が縫い付けられ、ショーツは履いたことのないソングタイプだ。サイドの二股に別れたストリングとバックの面積の少なさに照れてしまう。

極めつけは付け方すらよく知らなかったガーターベルト。
セットなのでと渡されたのはストッキングはレースがお揃いで可愛いけれど。

これ、着れるの私…!

高島さんのタイプが由加梨さんみたいな人だと聞いて、とりあえず全くない色気を少しでも出せるならと買ってみたのは良いものの、店で見たときとは違って妙に生々しく気恥ずかしい。

「これ、いきなり着けるのは難易度高いよね…」

一人呟いてランジェリーとにらめっこする。

試着だけ、してみよう。

可愛い下着を身に付けるのはドキドキするけど、女心として気分は高揚する。
店員さんに言われた通りに身に付け、最後にレースとシースルーのみで肌を透かすようなキャミソールを着て鏡の前に立った。

「可愛い…」

派手かと思っていたピンク色は肌の上に乗せると馴染むようにフェミニンな雰囲気になった。
綺麗に強調されたバストのデコルテにシースルーから見える肌は素肌よりも色っぽくみえる。

ランジェリーでこんなに変わるんだ。

見慣れない自分の姿は恥ずかしいが、綺麗で美しいものを身に付けるのは楽しいと思えた。

「うーん、でもこの姿で高島さんの前に出るのは勇気いるな…」

今日は無理かな、とキャミソールを脱ごうとした瞬間、ガチャリと扉が開く音が聞こえた。

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