能ある鷹は恋を知らない
席に着くと思った通り、彼女の目は夜景に釘付けになっていた。
予想していた反応にも関わらず彼女を見ていると愉快な気分になる。
こんな感覚は久しぶりだった。

メインの肉料理を口にすると、顔に出さないようにしていたのだろうが、相好が崩れて幸せそうな表情がまるで子どもみたいで笑いが込み上げる。

「そんなに気に入った?」
「はい…美味しいです」

尋ねると一度は恥ずかしそうに目をそらすが、彼女は嬉しそうにそう言った。

「私なんか連れてきて楽しいですか?」

ふと問われた疑問に口が反射的に答えていた。

「初めは反応を見てみたかっただけだけど、今のきみを見たら連れてきて良かったと思ってる」

本心だった。

彼女を見ていると飽きない。
もっと色んな表情をさせたくなる。

他人に対してこんな風に思うこと自体、普段の俺には考えられないことだった。

自分の中の感情を分析していると、もう一つ俺にとってのイレギュラーが現れた。

「奇遇ですね」

それはつい先日受け付け終了直後に来院してきた『EAGLE・EXCEED』のCEO、高島穂積だった。

彼と挨拶を交わし、彼女に視線が移ったとき。
その瞳が大きくなったのを見逃さなかった。

「上で飲まないか」
「え?」
「俺と飲まないかと訊いている」

ドレスアップした彼女と二人で食事に来ているこのシチュエーションで何の躊躇いもなく彼女を誘う彼に、本能的な部分で苛立ちを感じた。

その苛立ちは予感だった。

彼が急速に彼女に近付いていくことへの不愉快さ。
それはお気に入りのおもちゃを横取りされたような子供じみた独占欲。

「院長、お疲れ様です。お先に失礼します」
「お疲れ。…そうだ、鮎沢ちゃん」

何も考えていないような顔で彼に会いに行く彼女を少し困らせたかっただけだった。

無防備な彼女の腰を引き寄せて顎を掴み、強引に目を合わせた。
俺の行動に戸惑う彼女の大きな瞳を覗き込む。

「いんちょ…っ」
「男が女に服を買って着せる意味を知ってる?」

どうしてだろう。

「その服を脱がせて抱きたいってことだ」
「…っ」

彼女に触れて匂いを感じた瞬間、手離すのが惜しく感じるなんて。

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