優しい魔法の使い方
第二話 【魔法の使用禁止!?】
シーナとトッドの共同生活が始まった初日。
シーナはウキウキしながらトッドと共に工房へ向かった。

「どうぞ。ここが工房です。リリィさんに空き家を譲ってもらって、デスクや必要な道具や書物の本棚とか揃えてもらいました。」

工房は白石の壁で出来たもので、窓から柔らかい日が射している。

部屋の隅には1人用のデスクがあり、工具や裁縫セット、設計図の様な図面の描かれた紙の束が乱雑に置かれていた。

部屋の中央には木製の長机が置かれてあり、沢山の付箋の貼られた本が、これも同じく乱雑に置かれていた。

職人の工房を初めて目の当たりにしたシーナは、キョロキョロと辺りを見回していた。

「散らかっていてすいません。僕、掃除があまり得意じゃなくて」

トッドは隣で苦笑する。

シーナはぶんぶんと首を横に振り、目をキラキラと輝かせてトッドに詰め寄った。

「ねぇトッド?私は何をすればいいんですか?どんなお手伝いを?」


「えっと、日頃は主に…家事をお願いしたいんですが…。」

トッドは頭を掻きながら苦笑混じりにつぶやいた。


「家事?」

シーナはガクンと肩の力が抜けると、トッドから一歩引いた。

「えぇ、家事。僕は主に町民の耕具や日用品の修理で、1人で事足りるのですが…どうも家事に手が回らなくて困っていたんです。」

「私…まさか家政婦として呼ばれたんですか…?」

先ほどまであんなに、はしゃいで笑顔を見せていたシーナが一変。

今にも泣きそうな表情で訴えるシーナにトッドはギョッとして、慌てて言葉を訂正する。

「いえいえ、もちろん本職のお手伝いもしてもらいたいんだけど、今は1人で事足りるので。その間は家事を…」

だめですか?と申し訳なさそうにシーナの顔を覗き込む。

「わ…分かりました!シーナ、一生懸命頑張ります!」

しばらく、しょんぼりしていたシーナも、笑顔を取り戻し、トッドにガッツポーズをみせる。

「助かります。じゃあ、早速晩ご飯を。ダイニングに1日の予算が書いてありますので街に買い物に出てもらえますか?メニューはお任せします。」


「お料理ですね!任せてくださいシーナのレプリカ魔法で」

「ちょっと待った!」

シーナが意気揚々と魔法をかける素振りを見せると、急にトッドに制止される。

「はい?」

「ここでは家事におけるレプリカ魔法の使用は禁止。」

「えぇ!?」

トッドはおもむろにシーナと向かい合い自分の胸を押さえゆっくり話しだす。


「ここの問題です。分かるかな」

「心?」

トッドは優しく微笑んで頷いた。

「この世界で、職人が使う魔法は、職人自身の為の魔法じゃない。
 手で作業するより楽をするために魔法を使うような職人に、有名な人なんて誰もいない。
 不思議なんだけどね。絶対敵わないんだよ、魔法を使って楽して作った職人の生み出したモノは。
 魔法が使えない職人の、丹精込めたモノには敵わない。
 素敵なことだと思いません?魔法が使えたって使えなくたって、生み出したモノの価値は同じなんだよ?
 自分の為じゃなく、誰かの為に込めた思いが同じだから」

「・・・・・」

「だから、僕は魔法を自分の為には、使ってほしくない。
 僕なんて職人なんて名乗れないかもしれないけど、気持ちは一緒だから。
 それに、職人の片腕を目指して、5度も頑張って試験を受けた君には尚更・・・
 例えレプリカでも、魔法を楽するために使ってほしくないんだ。分かってくれませんか?」

俯くシーナに心配そうにトッドは問いかけた。

「・・・・」

しばらくトッドが声をかけられずにいると
シーナはすっと顔をあげて、ニコリと笑ってみせた。

「分かりました!私、自分の楽の為に魔法は使いません!約束します」

「本当ですか?」

「えぇ、約束します!じゃあ私、早速買い出しに行ってきますね!」

シーナは元気よく工房を飛び出していった。

トッドはシーナの表情に笑顔が戻ったことに安心し、
工房のデスクに座り、修理の作業を始めた。





シーナは商業区まで降りてきて、トッドがダイニングに置いていた予算を握りしめ

晩御飯のメニューを考えていた。

「弱ったなぁ・・・」

シーナは内心とても焦っていた。

寮生活時代は料理はマカに任せきりだったせいで

実際に料理をしたことが無かったのだ。

「どうしよ、とにかく野菜と・・お肉とで・・」

シーナは予算であるだけの野菜と肉を購入。

「お嬢ちゃん見ない顔だね、どっから来たんだい?」

肉屋の店主に声をかけられた。

「お・・丘の上の、トッドさんのアシスタントで今日からこの街に」

頬を赤らめてそう伝えると店主は急に笑った。

「おぅ、アイツんトコか。トッドに伝えとけ。もっと街に降りて来いってな。これサービスしとっから」

そう言うと店主は値段よりg数を多く売ってくれた。

「は・・はい!ありがとうございます」

なんとか食材を購入し、丘を登りトッドの家まで辿り着いた。

ダイニングに食材を広げて腕まくりをする。

「大丈夫、マカが料理するところ、ちゃんと見てたもん!
それにスープの味なら覚えてる!あとは、お肉のソテーって・・のは焼くだけだっけ?」

献立は野菜スープとソテーにに決定されたらしい。

「よーっし!美味しいの作るぞー」



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