届くなら、あの日見た空をもう一度。
「お邪魔します」
かなちゃんが私のすぐ目の前を過ぎゆく。
通り過ぎさま、自分のとは違う柑橘系の香りが鼻をかすめた。
香水とは違う。
シャンプーの匂いだろうか……。
「待って!」
咄嗟にかなっちゃんの腕を掴む。
「すごいな」
遅かった。
「ちょっと疲れてて。た、たまたまだよ?」
“ちょっと”
“たまたま”
そんな訳ない。
ここ数ヶ月まともに掃除なんかしていない。
カーテンすら開けてない。
洋服だって脱いだままそこら中に散らばっている。
季節感の違う夏物までが。
「そうか」
馬鹿にするふうでもからかうわけでもなく。
かなちゃんの声は妙に淡々としていた。
「ちょっとここで待ってて」
そそくさと部屋に入り込み足元に散らばっている服をかき集める。