届くなら、あの日見た空をもう一度。
美味しい。
久しぶりに、そう思った。
いつからか味を感じなくなっていた私の舌に広がる苦味を。
久しぶりに鼻腔に広がる芳ばしい香りを。
ゆっくりゆっくりと噛み締める。
「なのねえ、何かあったの?」
私が知っているのより低めの声が耳に届く。
背が伸びただけじゃなくて声まで変わってる。
なんだか知らない人みたいだ。
先程までカップに目を落としていた彼が真っ直ぐに私を見ていた。
だけど目。
この目だけは変わってない。
小さい時からずっと、私の知っているかなちゃんはいつでも真っ直ぐな目をしていた。