パーフェクト・インパーフェクト
ドライブのあいだ、皆川さんはずっと歌詞のない音楽を流していた。
楽器だけがシャンシャン鳴り続けている単調さがどうにも退屈で、いつもこういうのを聴いているのかと問うと、ヘンテコな答えが返ってきた。
「言葉があると考えなくてもいい、よけいなことまで考えない?」
あまりぴんとこない。
わたしは普段、日本語で歌われた曲を聴くことが多いし、それに対してなにか深いことを考えたことすらなかった。
流行っている曲をてきとうにピックしてスマホに入れて、てきとうに聴いている。
よくわからないけど、音楽を仕事にしている人だからこそ、こういうことを思ったりするのかな。
彼にとって“考えなくてもいいよけいなこと”とは、いったいどんなことなんだろう。
「好きな曲流していいよ」
けれどもそんなこだわりはなんでもないことだと言わんばかりに、皆川さんは流れている音楽を簡単に止めた。
「ペアリングすれば飛ばせるから」
「そんな、履歴にわたしの名前を残すわけには」
「べつに誰も見ないよ」
どうしてそういうことをさらりと言うのだ。
万が一でも奥さん(仮)に見つかったら大事件でしょうに!
本当に手練のやり手なの?
詰めが甘すぎる。
「いいんですっ。わたし、さっきの音楽が聴きたいです」
止まらないで前進し続ける鉄の塊を運転しながら、穏やかな瞳がちらりとこっちを見て微笑んだ。