パーフェクト・インパーフェクト


またあの単調な音楽が流れだす。


「常に周りに気ぃ遣ってるよな。悪い意味じゃなくてさ。若いのにすごいなって感心する」


最初から、褒め上手な人だとは思っていた。

どんなことでもポジティブな捉え方をして、優しく肯定してくれる。

それは、ほんの少しだとて他人を否定したことなど、生まれてこのかた一度だってないのだろうというほどに。


こっちのせりふだ。

皆川さんは、常に世界中に気を遣っている。

そう、とても。こわいくらい。


「お仕事のときだけですよ」

「きょうは仕事じゃないだろ?」


間髪入れずにそんな言葉が飛んできて、思わず背筋がぴーんと伸びてしまった。


「少なくとも俺は、仕事のつもりで来てないけど」


そうだ。

きょうは、メイクさんもカメラマンさんも衣装さんもいけちゃんもいない。

リアも、あの3人のお兄さんたちだっていない。


ふたりきり。

完全プライベート。

丸一日、オフ。


わたしだって仕事のつもりなんか微塵もない!


「じゃあきょうはいっさい気を遣わないですっ」

「うん、いいね」

「だから皆川さんも!」

「名前でいいよ」

「は……」


信号が赤に変わる。

ゆっくりとスピードを落としていく車は、やがて時速をゼロにした。


「“デート”なんだろ? 杏鈴ちゃん」


やっぱりこの人、油断大敵、かもしれない。


とても優しいふりをして。

甘く肯定してくれたその隙に、不意を突くつもりかも。


日付が変わる前に帰らないと。

なんとしてもギャフンと言わされないようにしないと。


杏鈴ちゃん、だって。

なんだか運転席が、急に近い。

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