パーフェクト・インパーフェクト



「――と、いうわけなの! すごいでしょ!」


スピーカーホンで繋いでいる電話のむこうで、いつもの、優しい笑い声。

電子音と混ざったような響きは、通話時ならではのものだ。


「そうなんだ、すごいね、おめでとう」

「ありがとう!」


シャカシャカ、新品同然のボウルのなかで、鮮やかな黄色を上機嫌にかき混ぜている。

ただいま絶賛、オムレツの練習中。


なぜ、唐突にこんなことをしているのかというと。

お正月に俊明さんのおうちに泊まったとき、朝ごはんに完璧な朝食プレートが出てきたのが、本当にショックだったから。


ハムとチーズのホットサンド、スプーンで食べやすいチョップドサラダ、苺ジャムのヨーグルト。

そこに、おまけみたいな、真っ白でつやつやのゆで卵が添えられていた。


オレンジジュースを吸いこみながら、いったいなんだこれはと、起きぬけの頭ではあまり理解できなかった。


よくよく聞いてみたら、彼の地元には“モーニング”という文化があるらしく。


朝、カフェに行ってコーヒーを一杯頼むと、当たり前にこういうプレートがついてくるんだって。

すなわちコーヒーの料金分だけで、お腹いっぱいの朝ごはんが食べられるんだって。


彼のなかの価値観を作り上げているのは、わたしのまったく知らない世界ばかり。

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