パーフェクト・インパーフェクト
料理するんだね、と言ったら、
するよ、となんでもなさそうに彼はうなずいた。
ふうん、と何気なしに答えながら食べたオムレツが、これまでに食べたどんなそれよりもおいしくて。
ショックを受けないわけがない。
だって……わたし、料理がほとんどできない。
たとえばこれから先、彼がうちにお泊まりしてくれることがあったとしても、わたしにはこんなにおいしい朝ごはんを用意することができないんだと思うと、こんなに情けない、恥ずかしいことはなかった。
だから、絶賛、練習中。
「ところで」
受話器のむこうにいる年上の恋人は、いったん会話をそう区切ると、少し困ったような言い方で、でもちょっとだけいじわるな声で、続けた。
「恋人がほかの男の頬にキスするのと、一日デートするのが決まったことを聞かされて、俺はどうしたらいいのかな」
IHヒーターに小さめのフライパンを置こうとしていた手が止まる。
中火に設定した機械がピピピと鳴きはじめる。
「そんなこと言って……やきもちなんてやかないくせに」
「俺もそれなりに嫉妬くらいするけど」
「でも笑ってるもん」
しっかりと油を引いて、じゅうぶんにあっためて。
卵はフライパンにくっつきやすいということを、第一回目の練習で大失敗して、学んだ。
パチパチ音をたてはじめた熱々の鉄の上に、鮮やかな黄色を流しこんでいく。
いっきにじゅわあっと広がる。
なんとなく、今回はうまくいく気がしてきた。