パーフェクト・インパーフェクト


「いやあ、かわいいなと思って」


そういうこと、すぐ言う。

簡単に言う。

しかもぜんぜん思ってなさそうに言う。


「それ、おじさんみたい」


だからこっちも悪あがきの反撃をすると、ははっと、今度は本気っぽい笑いが電波に乗って届いてきた。


「俺も自分でそう思った」

「しょうがないから、おじさんでも、わたしだけは好きでいてあげるね」

「ありがとう、優しいね」

「感謝してね」


ぽこぽこ交わし合うくだらない会話の合間に、フライ返しで黄色の丸の端を持ち上げる。

ここからが勝負なのである。


「ほっ」


思わず声が出た。

当然のようにキッチンに立っているのはバレていて、なに作ってるの、と問われたけど、恥ずかしくてオムレツだとは打ち明けられない。


「ひみつ!」

「秘密なの?」

「俊明さんがいままで何人のコとつきあってきたのか、教えてくれたら教えてあげてもいいよ」

「なんだそのすげーカウンターパンチ」


いつも優しいしゃべり方をする人だけど、だからこそ、たまにこうやって崩した感じに話してくれると嬉しくなる。

彼はきっと、“外側の人間”にはそんなところを見せたりしないと思うから。


「で、できた……!」


白い湯気を上げる楕円をお皿に盛りつけながら、自分で拍手喝采したくなった。

大成功。

何度目かのチャレンジにして、少なくとも見た目だけは、本当においしそうだよ。


「ね、なに作ってるか教えてほしい?」

「うん」

「ないしょー!」


いちばんに食べてもらいたいな。

電話のむこうから絶えず聴こえてくる優しい笑い声を、きょうも大好きだって思う。


どんなに忙しくとも、会えない日が続いても、こうやって隙間をぬってふたりの時間を持てていることが、幸せ。




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