パーフェクト・インパーフェクト
✧︎*。


一度でいいからどうしても季沙さんのケーキを食べてみたいと、わたしがわがままを言えば、彼は快く叶えてくれる人だ。


「わあ、杏鈴ちゃん! 遊びに来てくれてありがとうっ」


青山にある、隠れ家みたいなケーキ屋さん。

ヨーロッパのおしゃれな一軒家のような雰囲気が、すごく季沙さんにぴったりだって思った。


「突然おじゃましちゃってごめんなさい!」

「ううん、すごくうれしいよ! そしてきょうも抜群にかわいくて見てるだけで癒されるよ……」


平日の昼間だからかそこまで混雑もしておらず、コックコートのままわざわざフロアまで出てきてくれた季沙さんからは、相変わらずとろんとした甘いにおいがする。


だけど、こないだとは少し違っている香り。

そしてその風貌からも、いままさに生菓子を扱っているんだなと感じて、どうにもわくわくした。


「トシくんも、お休みの日にありがとね」

「いや、むしろ洸介抜きなのにごめんな」

「ううん、家に帰ったら毎日いるんだからいいんだよー」


その表情は、せりふとは裏腹に、とても幸せそうで。

思わず、好きな人と毎日いっしょにいられる生活ってどんな感じなんだろう、と想像してしまう。


ふと彼のほうに視線を向けたら、そっと目が合った。


たとえば、
たとえばの話、ね。

目が覚めて、眠りに落ちるまで、この人の傍にいられたら。

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