パーフェクト・インパーフェクト


見つけられるような場所に、こんなあやしさマンテンなものを置いておくほうが悪い。

鍵つきなのに開けっぱなしにしておくほうが悪い。


わたしは片づけようと思って、ちょっと手をかけてしまっただけ。

そしたらぱかっと開いてしまっただけ。


わたしは悪くない、
わたしは悪くない、

彼が悪い――



「――なに、これ?」


中身は通帳でも、現金でも、もちろん埋蔵金でもなく。


一枚の写真と、一通の手紙と、それから……


「……万年筆?」


深いボルドーの万年筆が、ころんと転がっているだけだった。


万年筆にはサインのようなものが印字されていた。

正確には印字でなく、浅く彫ってあるみたい。

人の名前みたいな、だけど筆記体だから、なんと書いてあるのかぜんぜんわからない。


彼の名前――ではないような気がする。

もう少し短めの単語、あるいは人名だ。


読解するのは早々にあきらめ、今度は手紙を手に取ってみる。

かつて真っ白だった封筒がほんの少し焼けたような色、たぶん受け取ってから少なくない年月が経っているはずだ。



『 皆川 俊明 様 』



なんのイラストも模様もない、殺風景というよりシンプルな無地に、すらりとした字で彼の名前が書いてあった。

よかった、とりあえず名前は嘘じゃないみたいだよ。


でも……これは、女性の書くような字だね。


なんの気なしに手首をくるりとまわす。

裏面には同じ字体で、差出人の名前が几帳面に記してあった。



『 篠岡 衣美梨 』

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