パーフェクト・インパーフェクト
彼は、もしかしたら、一度くらいはお医者さんになろうとしていたのかもしれない。
お父さんの期待に応えようと、この3人の家族であろうと、自分の使命をまっとうしようと、していたのかもしれない。
写真のなかの少年にはそういう覚悟みたいなものが見える。
彼は、病院の跡取りとして生まれたことを理解して、少なくとも18歳で家を出るまで、その現実をきちんと背負って生きていたのではないかと。
幼い彼の顔をじっと見ていたら、なんだかそう思えてならなかった。
家族の話を聞いたとき、もう仲直りはできないのかって。
そう、あまりにも簡単に聞いてしまったわたしに、彼は、する必要も理由もない、とどこか冷たく答えたけど。
じゃあどうして、写真を持っているの?
どうして、こんなにもひっそりと、隠すように、大切に、しまってあるの?
「……うそばっか」
怒りなのか、悲しみなのか、切なさなのか、寂しさなのか。
感情が、ぜんぜん追いつかない。
だけど彼のことを嫌いになったわけじゃない。
大好きだよ。
とても、優しい人。
いろんな感情を押し殺しながら、きっと自分のなかでいろんな折り合いをつけながら、他人に優しくできる人。
なんでもないようにずっと笑っていられる人。
それをわたしは、彼が自分で言ったような“冷たさ”だとは思わない。
彼のそれは、冷たさによく似た、寂しさだ。