パーフェクト・インパーフェクト


彼は、もしかしたら、一度くらいはお医者さんになろうとしていたのかもしれない。

お父さんの期待に応えようと、この3人の家族であろうと、自分の使命をまっとうしようと、していたのかもしれない。


写真のなかの少年にはそういう覚悟みたいなものが見える。


彼は、病院の跡取りとして生まれたことを理解して、少なくとも18歳で家を出るまで、その現実をきちんと背負って生きていたのではないかと。

幼い彼の顔をじっと見ていたら、なんだかそう思えてならなかった。


家族の話を聞いたとき、もう仲直りはできないのかって。

そう、あまりにも簡単に聞いてしまったわたしに、彼は、する必要も理由もない、とどこか冷たく答えたけど。


じゃあどうして、写真を持っているの?

どうして、こんなにもひっそりと、隠すように、大切に、しまってあるの?


「……うそばっか」


怒りなのか、悲しみなのか、切なさなのか、寂しさなのか。

感情が、ぜんぜん追いつかない。


だけど彼のことを嫌いになったわけじゃない。


大好きだよ。


とても、優しい人。

いろんな感情を押し殺しながら、きっと自分のなかでいろんな折り合いをつけながら、他人(ひと)に優しくできる人。

なんでもないようにずっと笑っていられる人。


それをわたしは、彼が自分で言ったような“冷たさ”だとは思わない。


彼のそれは、冷たさによく似た、寂しさだ。

< 263 / 386 >

この作品をシェア

pagetop