パーフェクト・インパーフェクト
「ねえ、仕事セーブしてるって」
タンのお皿が空っぽになり、絶世の美女のハーフモデルがジョッキを2杯あけたところで、わたしは単刀直入に聞いた。
どう切り出したらいいかわからず、しばらくひよっていたのだけど、泥酔されたら元も子もない。
まわりくどいのは好きじゃないし、そういう小手先のことはできないので、もうストレートにいくしかないと思った。
リアは困ったように笑った。
「あー、やっぱりそのことね」
なんとなく、むっとする。
わかっていたならソッチからなにか言ってきてくれればいいのに。
シンプルなリングたちに守られた、もう色素からしてわたしとは違うような真白な手が、トングで順番にレバーをひっくり返していくのをぼんやり見ていた。
「そろそろ潮時かと思ってね」
はたちの女の子が、引退間近の職人みたいなことを言った。
「いちおう、聞くけど。……なにが?」
「“ファッションモデル”」
彼の家で鍵つきの箱の中身を見てしまったときと、同じような呼吸困難。
だけど、ぜんぜん違う種類の苦しさだ。
「……なに、なんで、急に、やめて」
リアはトングを傍らに置くと、そっとジョッキに口をつけた。
赤いリップが透明のグラスに付着する。
「アンちゃんには話したことあったよね。もともとメイクアップアーティストになるのが夢だったんだって」
「うん……聞いた」
「やっぱり、あたし、諦めらんない」