パーフェクト・インパーフェクト


仕方がないので、鍵を開けてドアノブを引っぱる。


「とりあえず入って。誰かに見られたら嫌だから」

「いいのかよ? 部屋入ったら、またおれになにされるかわかんねーけど。いま最高にむかついてるし」


なんなの、本当に。

ふつう、好きな女の子に、そういうこと、冗談でも言う?


「部屋はっ、入らないで! 玄関でストップして!」

「そんなん同じだろ。だからおまえはダメなんだよ」


雪夜の、きれいな瞳。
グレーがかった色素の薄い色。

ふたつのそれがゆらりと持ち上がって視線が合ったら、吸いこまれるように、罠にかかるように、目を逸らせなくなってしまう。


時に、美しさは罪に値する。


それはきっと真実だと思う。


だけど雪夜はなんにも悪くないよ。

こっちが勝手に魅入られてしまうだけだ。


「それ以上近づいたらぶん殴るから!」

「あーうるせーなあ……」


傍らにあった靴ベラを持って距離を取ると、年下のはとこ(、、、)は面倒くさそうに首をひねってポキポキと鳴らした。

早く帰ってゲームしてえ、とひとりごとを言う。

なら、早く帰ってゲームしてろ。


「いいからあした、メシ食いに来い。そしておれと喧嘩はしてなかったと全員に証言しろ」

「ハァ? あんなことしといてよくそんなムシのいいことが言えるね!」

「おまえが悪いんだろ」

「雪夜が悪い、100悪い」


機嫌の悪い高校生は呼吸を整えるように大きく息を吐いた。

ため息というより、爆発しそうな感情を小さくアウトプットした感じだ。


「もし雪夜が、ぜんぶ……なかったことにするってここで言うなら、いいよ。元通りにする。わたしもなかったことにしてあげる」


ふざけるな――と。

これまでに見たどんなそれよりも美しい形のくちびるが、小さく震えた。

< 271 / 386 >

この作品をシェア

pagetop