パーフェクト・インパーフェクト
仕方がないので、鍵を開けてドアノブを引っぱる。
「とりあえず入って。誰かに見られたら嫌だから」
「いいのかよ? 部屋入ったら、またおれになにされるかわかんねーけど。いま最高にむかついてるし」
なんなの、本当に。
ふつう、好きな女の子に、そういうこと、冗談でも言う?
「部屋はっ、入らないで! 玄関でストップして!」
「そんなん同じだろ。だからおまえはダメなんだよ」
雪夜の、きれいな瞳。
グレーがかった色素の薄い色。
ふたつのそれがゆらりと持ち上がって視線が合ったら、吸いこまれるように、罠にかかるように、目を逸らせなくなってしまう。
時に、美しさは罪に値する。
それはきっと真実だと思う。
だけど雪夜はなんにも悪くないよ。
こっちが勝手に魅入られてしまうだけだ。
「それ以上近づいたらぶん殴るから!」
「あーうるせーなあ……」
傍らにあった靴ベラを持って距離を取ると、年下のはとこは面倒くさそうに首をひねってポキポキと鳴らした。
早く帰ってゲームしてえ、とひとりごとを言う。
なら、早く帰ってゲームしてろ。
「いいからあした、メシ食いに来い。そしておれと喧嘩はしてなかったと全員に証言しろ」
「ハァ? あんなことしといてよくそんなムシのいいことが言えるね!」
「おまえが悪いんだろ」
「雪夜が悪い、100悪い」
機嫌の悪い高校生は呼吸を整えるように大きく息を吐いた。
ため息というより、爆発しそうな感情を小さくアウトプットした感じだ。
「もし雪夜が、ぜんぶ……なかったことにするってここで言うなら、いいよ。元通りにする。わたしもなかったことにしてあげる」
ふざけるな――と。
これまでに見たどんなそれよりも美しい形のくちびるが、小さく震えた。