パーフェクト・インパーフェクト


「一途なんだ?」

「……知ってるくせに」

「うん、杏鈴ちゃんを好きな全国の男に、申し訳なくなるときが、たまにある」


男性ファンのことを指して言ったのだろうけど、とっさに雪夜の顔を思い出して、胸のあたりがちくっとした。


さんざんブレザーの肩を濡らしておきながら、わたしはあの日、なにがあっても雪夜のことは選ばない、と最後に宣言したのだ。

それは、親戚だからとか、年下だからとか、性格が合わないからとか、そういうんじゃなくて。


ただ単に、
わたしが国茂雪夜じゃなく、皆川俊明を好きだから。


それ以上の理由なんてないよ。

ついでに、彼がわたしを本当に好きでいてくれているとか、本当は好きでもなんでもないとか、そういうおまけの真相も、必要ない。


「俊明さん」

「うん?」

「あのね……大好きだよ」


俺もだよって、これからも、ずっと、永遠に、言ってもらえないとしても。


きっと“来る者拒まず”な彼が、わたしを恋人として受け入れてくれた現実がここにあるだけで、じゅうぶんだ。

だって、わたしは、彼のもとを去らないから。


だから、胸にうずくもやもやの正体は、暴かないままでいいんだ。

この腕のなかで眠ることができる幸福を手放さないために、本当は、暴かないままでいたいんだ。




< 283 / 386 >

この作品をシェア

pagetop