パーフェクト・インパーフェクト
ノックをしても、ドアが開いても無視するのって、相手がわたしじゃなくても同じなワケ?
「雪夜」
呼びかけてもなお、返事はナシ。
向き合っているテレビの画面を見たらやっぱりゲームをしていたけど、きょうはAI相手の対戦ゲームじゃなく、ひとりでプレイするRPGみたいだ。
仕方がないので隣に座った。
数秒後、グレーがかった瞳がちらりとこちらを見る。
「……杏鈴がモデルやるって言い始めたとき、たぶん人生でいちばんむかついた」
そして、出し抜けに、突拍子もないことを言った。
「おれの顔に頓着がないように、自分の見た目にも、“ブス”の杏鈴はずっと興味ないんだと思ってたから。ファッションモデルやるんだってキラキラした顔で言われたとき、なんかすげえ、裏切られたような気持ちだった。あー杏鈴も外見至上主義だったのかよ、とか思って」
「……なに、急に。なんの話」
「実際おまえはどんどんきれいになってったよ。日焼けを嫌がって、最新コスメに詳しくなって、ダレソレがかわいいとか、かっこいいとか話すようになって。それが、おれは死ぬほど嫌だった。杏鈴はブスのまま、自分の見た目にも、おれの顔にも、永遠に興味なんか持ってほしくなかった」
ふいに、画面が一時停止する。
コントローラーをカーペットに放った雪夜がこっちを向いた。
どこかまじめな顔で、わたしもつられて、背筋がシャンと伸びてしまう。