パーフェクト・インパーフェクト
「でも、コンテストと撮影のときの杏鈴を近くで見て、あまりのプロ根性に圧倒された。正直マジで、素直に、すげえって思った」
わたしの記憶が正しければ、生まれてはじめて雪夜に褒めてもらったような気がする。
夢かと思って頬をつねる。
痛い。
夢じゃない。
雪夜が「なにしてんだ」と嫌そうに眉をしかめた。
「おれ、やっぱ杏鈴しか無理だよ」
こんなきれいな顔に、こんな至近距離で、こんなせりふを、こんな真剣に言ってもらって。
わたしってきっと、前世での行いが最高に素晴らしかったんだろうな。
「あいつと別れたんだろ」
こっちが返事をする前に、畳みかけるように、グサッと心に刺さる一言。
報告していないのにどうして?と思ったけど、こういうのって、なんとなく、わかってしまうものなのかもしれない。
特に雪夜は、わたしを好きでいてくれているらしい……から。
「頑張ってんのわかるよ。てか、最近、ちょっと頑張りすぎなんだよ。ずっとしんどいくせに、杏鈴ごときが誤魔化そうとしてんじゃねーよ」
急に優しくされると本当にきつい。
しかも、それが普段は最強にクソ生意気な、年下の男子だと。
「ガキのころ……顔のことでいじめられてたとき、ずっと杏鈴に守ってもらって、じゃあ次はおれが杏鈴を守ってやるんだって、決めてた」
「ほんと、やめて、雪夜のくせに、らしくないことばっか言わないで」
「うるせーな。いまはおれがしゃべってんだよ」
そうかと思えば、いきなり怒りはじめる。
情緒不安定かよ。
中途半端なんだよ。
優しくするなら、完膚なきまでに優しくしてよ。