パーフェクト・インパーフェクト
「ファッションモデル・オブ・ザ・イヤー、受賞おめでとうございます」
彼はぜんぜん変わらない、優しい微笑みをたたえながら、真っ赤な薔薇の花束をわたしに手渡した。
まさに、完璧。
赤いドレスに超似合うチョイスだもの。
でも、これは、プロポーズのときにくれるやつだとばかり思っていた。
「……ありがとう、ございます」
「ご活躍、ずっと拝見していました」
「なに……」
困ったように彼が笑う。
眉がハの字になる。
それを、とても、愛しい形だと。
そんなふうに、くやしいほどに、いまだに思わされてしまう。
「お察しの通り、俺ってけっこう去る者追わずな主義だったはずなんだけど。追いかけずにはいられない女の子って、いるんだな」
「……なんで、だって、衣美梨さんとは、衣美梨さんとっ、なんで」
「空港には行ったよ。彼女も来てくれた。飛行機には乗らないで、ふたりで少し、話をした」
なつかしい声。話し方。
空気をくすぐっていくような、ふわっとした音。
「10代のころ置いてきた気持ちをお互いに預けて、ごめんと、ありがとうを、言えなかった分だけ伝え合った。だけど、それだけ。彼女は旦那さんのことをいまとても大切に思ってるし、俺にはもう、どうしようもなく好きな子がいるから」
本当にありがとう、
と、彼は穏やかに、ひとつの嘘もない響きで、言った。