パーフェクト・インパーフェクト
「あ、そういえば。予定してた撮影だけど、あした大丈夫そう?」
退屈そうに雑誌をぱらぱらとめくっていたいけちゃんが、思い出したように声を上げる。
「あー……」
ありゃ。なんだっけ。なんの撮影?
最近ずっと仕事がたて込んでいたからぜんぜん思い出せないよ。
「ミュージックビデオだよ」
質問する前に答えをくれるトコ、さすがだなと思う。
ママの弟子みたいな存在のいけちゃん、付き合いの長さが段違いだもんね。
歳は5コくらいしか離れていないはずなのに、第二のママみたいな感じ。
「あー、そんな話あったね」
「こら。ひとつひとつのお仕事にきちんと感謝すること。でしょ?」
「はぁい」
『ひとつひとつのお仕事に感謝すること』
これはうちのママの常套句。
スタイリストとしてぜんぜん売れなかった時代があるママは、超売れっ子になったいまでも、お仕事をもらえることは奇跡だって言う。
それはすごく理解できるんだけど、あんまりぴんとはこない。
わりと最初からモデルのお仕事がひっきりなしにやってきていたわたしは、当たり前みたいに大学へ進学するのをやめた。
べつにそのことは後悔してない。
わたしは、この世界で生きていくって決めたから。