パーフェクト・インパーフェクト
「息きれてるけど大丈夫? やっぱりひとりじゃ大変だった?」
ひっ、と声が出たのはしょうがない。
だって、わたしの顔を見るなりそう言った皆川さんが、助手席から後部座席にちゃっかり移動してきていたのだから。
それでもなるだけ平気な顔を保って隣に乗りこんだ。
動揺を見せたら絶対にダメだよ。
少しでも隙を見せたりしたら、きっとこの人の思うツボ。
オオカミになんて食べられてたまるもんか。
だってわたしは、彼に奥さん(仮)と娘ちゃん(仮)がいることを知っている。
「遅くなってすみません」
顔は見ないでぺこっと頭を下げた。
そして間髪入れずに運転手さんにウチの住所を告げると、すぐに窓の外へ視線を移した。
皆川さんがいるのとは、まったく反対のほう。
一度でも目を合わせたら負けてしまう。
優しく濡れるあの深い漆黒の瞳に、きっとわたしは、勝つことができない。