パーフェクト・インパーフェクト


車内は先ほどと同じく恐ろしいほど無言で、ウチとリアんチとはわりと近所のはずなのに、この沈黙が永遠に続くような気さえしてしまった。

それでもいつか目的地には到着する。


「ご家族と一緒に住んでるの?」


窓越しに我が家を見上げた皆川さんが、少し驚いたように言った。

高校を卒業すると同時にパパが購入してくれた、都内の一等地にどーんとそびえ立つマンションは、こんな小娘がひとり暮らしするにはもったいないような贅沢な住まいだ。


「あ、ひとり暮らしで……」


言いながら、あ、ヤバ、と思う。
でももう遅い。


そんなこと、自分からバラしてどうするの?

食べてくださいって言ってるようなものじゃん。


「そうなんだ、若いのにえらいな」


それなのに皆川さんは想像とはぜんぜん違うことを言った。


でもこれはわたしを安心させる手口かもしれない。

油断禁物。
一瞬でも気を抜いたら、ぜったいに負け。


「ひとりで大丈夫?」


ほらきた!

ここに『よかったら部屋まで送っていこうか?』がくっつくんでしょ。


そんなことなど言わせるものか、と勢いよく口を開く。


「だいじょーぶですっ。運転手さんいくらですか!」

「いいよ、支払いは俺がまとめてするから気にしないで」

「そんなわけにもいきませんっ」

「いいんだよ」


それはわたしの体を代償としていただくからですか?

小さなおっぱいですからきっとタクシー代には(あたい)しないですよ!


なーんてバカなせりふを用意して身構えていると、いきなり皆川さんの長い指がこっちにむかって伸びてきた。

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