パーフェクト・インパーフェクト
皆川さんのこと、洗いざらい話した。
デートに誘われたこと。
たぶん奥さんと子どもがいること。
電話番号を渡されたこと。
話しているうち、目の前にある美しい顔はどんどん般若のような形相に変わっていったけど、雪夜はわたしが話し終えるまで口をはさんでこなかった。
「いや、もはやなにが相談なのかもわかんねーわ」
ひと通り聞き終えた雪夜の第一声は、あきれ100%という感じのせりふ。
「だから、サイテー男をなんとしてもギャフンと言わせるための方法を、どうにか享受願いたくて」
「ハァ? ギャフンどころか、もうすでに完全な杏鈴の劣勢だろ。相手は平気で不倫するような男だぞ」
「そこはカッコカリなんだってば!」
「あーもーなんのこだわりなんだよ。めんどくせーな」
だって、もしかしたら妻帯者じゃないかもしれない。
きっとそうだけど。
でも100%決まったわけじゃない。
かなり、100%に近いけど。
「あのね、聞いて、わたしにひとつ作戦があって」
「それってどーしても聞かなきゃダメなやつ?」
「なんとかして近づいて、骨抜きになるくらいわたしにメロメロぞっこんに惚れさせるの。それでね?」
「おい無視すんのやめろ」
「『もうアンちゃんがいないと無理! 生きていけない!』ってくらいのところで、完膚なきまでに振ってやる……ってはのはどうだろ?」
顔をがばりと右手で覆った雪夜が、手のひらのなかで長い長いため息をついた。
肺のなかの酸素からっぽになったんじゃないかってくらい、そりゃあもう長いため息だった。
そして右手をだらんと外すなり言った。
「おまえみたいな恋愛偏差値マイナス5千億のへなちょこ女が百戦錬磨のバンドマンをどうこうできるわけねーだろこのボケナス」
ひと息で、いっきに。
聞いているこっちが息苦しくなる。