パーフェクト・インパーフェクト
  ✧︎*。


090から始まる11桁の数字をタップするのにかなり手が震えてしまったことは、誰にも内緒。

通話ボタンを押すのにも、冗談じゃなく5分はかかった。
もしかしたらもっとかかったかも。


それでも意を決し、平らなガラスに親指を押しこんですぐ、呼び出し音が鳴り始めたときはどうしようかと思った。

当たり前のことで、もうこうなったらどうしようもないのだけど。


PとRだけで構成されているような、どこか不安を煽る無機質な音。

耳元で響いた8回目のコールで、ダメだったかとあきらめて通話終了ボタンを押そうとしたまさにそのとき、それはいきなりプツリと途切れたのだった。


「――はい」


すでに耳元から離していたせいで、とてもかすかな声だった。

それでもちゃんと聴こえた。


電話でも、皆川さんは皆川さんの声をしているんだ。


ああ、やばい、電話がつながった!


「あ……」

「あ」


戸惑いの「あ」と、ピンときたような「あ」。

まったく同じ一文字なのに、こんなにも響きが違うなんて。


「こんばんは」


わたしがスマホを耳に押し当て直したのと同時くらいに、彼はとても穏やかに言った。

電話って普通に話すより、うんと声が近い。

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